SSブログ

フライト [感動]







一生のうちに一度、とんでもないクレイジーなことをするという願望が
昔からありました。

なんでも良かったのですが、
急に仕事を辞めてその日に世界旅行へ出る、
上司の頭にお茶をかける、
いっそ、裸で走ってみる。

できるわけがないことなので、
願望が願望として募っていました。


私は派遣社員としてOLをしていました。
毎日が単調で、何も変わりなく、
恋人もいない退屈な毎日。

そのうち休日は家でゆっくりすることが多くなり、
出て行かず、パジャマのままで覚えるほど読んだ漫画をもう一度読む。


そんなんじゃ、恋人はできるわけないのですが。
しかし心の中では変化を切望していました。


ある日、仕事の合間にちらっとのぞいたSNSで
友達申請が来ていることに気がつきました。


誰だろう
と少し期待をしていると、

それは10年前、私がハワイへ語学留学をしている時に出会った
ロイスという男性でした。
ロイスはカリフォルニア出身の南米系アメリカ人で、
コーヒーショップで宿題をしている私に声をかけてきました。


焼けた肌がきれいで、私は一目でロイスに心を奪われました。

彼は私をディナーに誘い、私たちは甘くて熱い時間を過ごしました。
しかしロイスも私も、甘い時間は長く続かないと信じていました。
私は帰国日が近づいていましたし、ロイスもハワイへは旅行で来ていたので、
お互い1週間の「バケーションのひと時」として位置付けていました。

楽しければいい、そう思っていました。
1週間の間、私たちはまるで本当の恋人のように過ごしました。
映画に行ったり、学校に迎えに来たり、ショッピングやディナー。


そしてロイスがカリフォルニアに戻るときには飛行場まで送りに行きました。
さみしくなかったと言えばうそになるのですが、そんなもんだろう、と割り切っていたので、
長いハグの後、私たちは別々の方向へ戻っていきました。


ロイスがカリフォルニアへ帰ってから何度かはメールのやり取りがありましたが、
時とともに風化し、いつしか、昔あったきれいな思い出、となりました。



そんなロイスがSNSで友達の申請をしてきたので、
甘酸っぱく、また、何か初恋に近い気持ちに浸りました。

友達申請を許可すると、オンラインだった彼からメッセージがきました。

「元気?」
「元気だよ。ロイスは?久しぶりだね」

するとしばらく間があり、

「君を忘れられなかった」

とメッセージが送られました。

昔の私ならば、喜んで飛びついたかもわかりません。
しかし喜ぶには時間が経ち過ぎていました。

「ありがとう」

そう伝えて、私はむなしさとともにパソコンをオフラインにしました。
いつしか私はそんな甘い言葉に心を自動的にふさぐようになっていました。
何度か辛い恋愛をすれば、
簡単に言葉では喜べないようになるのです。


次の日も、そしてその次の日もロイスからのメッセージがきました。
正直、連絡を取る必要が見えなかったのですが、
少しだけ会話するなら問題はないか、とお互いの近況報告をしました。


ロイスはあれから2年後に結婚し、一人の女の子を授かったものの離婚、
今は一人でカリフォルニアのビーチハウスで生活をしている、と言っていました。

私も一度は婚約をしたものの、
ありきたりな「性格の不一致」という理由で破棄したことを伝えました。


そこからは毎日オンラインになると何気ない会話が続きました。

「元気?」
「仕事してる?」
「日本は何時?」
「週末は楽しかった?」

など、他愛のない会話です。








そんな会話が1カ月続いた頃、ロイスはもう一度ハワイで会ってみないか?と聞いてきました。

いまさら…。
ですがなんとなく心にひっかかりました。

そして一度は断ったものの、私はなんとなく、この誘いに乗りました。
この何年も有休など使ったこともなかったので、たまには自分を休めるのも気分転換になるだろう、
そう思いその日のうちにエアラインチケットを購入し、次の日には1週間の有給申請をしました。

フライトまでの1カ月は楽しさと不安と
そして「なんてバカな事をしているんだ」という気持ちでいっぱいでした。

そしてフライトの日、
メッセージで「これから日本を出るよ」とロイスに送りました。

チェックインを済ませ、これからハワイに飛び立つという時、
ひょっとしてロイスは来ないかもしれない、という不安にかられました。

でもまぁ、その時はその時で自分の馬鹿さ加減を笑えばいい、そう思い、私は8時間のフライトにつきました。

なによりも、単調な自分を変えたくて仕方がなかったのです。


ハワイに付き、ホテルにチェックインを済ませ、
私はSNSを開きました。
そこにはロイスのメッセージで
「付いたら電話がほしい」
と電話番号が記載されていました。


私はロイスに電話をし、久しぶりに聞く声に高揚しました。
同時に、本当に彼も来ていたという安堵感に包まれました。

待ち合わせはあの初めて会ったコーヒーショップ。
私はシャワーを浴びて気を落ち着かせ、
ミニスカートに大き目のTシャツというカジュアルな格好でロイスに会いに行きました。

コーヒーショップにつくと、ロイスがまず私をみつけました。
少しだけふっくらした彼の顔が、時の経過を物語りました。

そこから10年の月日は吹っ飛んだかの様に会話がはずみ、
私たちは失った時間を取り戻すかのように甘い時間を過ごしました。
あの時と同じように、映画を見たり、ショッピングに行ったり、
ビーチでのんびり過ごしたり、とそれはとても懐かしい時間でした。


しかし残る時間が2日となった時、
私たちのどちらもがぎこちなくなりました。

さみしさが、募ってきたのです。

ですがお互いに言い聞かせました、これは一週間のバカンスと決めたことだからね、と。
刹那的であるが故に愛しさが増しているんだ、ということを何度も話しあいました。
お互いが、この関係が永遠でないと分かっていたのです。

そして迎えた最後の日、
最後のディナーはおしゃれをして最高のデートにしよう、
とロイスが提案をしました。

私はワンピースにハイヒールで髪の毛を巻き、
ロイスは先にレストランを予約したいから、と出て行ったので、
私たちはあのコーヒーショップで待ち合わせをしました。



コーヒーショップで私を見つけたロイスは私を見つけて目を細めました。
そしてレイ(ハワイの花の首飾り)を私に掛けました。
プルメリアの甘い香りに包まれました。

レストランは海が見渡せる場所で、サンセットがとてもきれいでした。

楽しい時間はすぐに過ぎていき、ワインのボトルも1本があきかけた時、
私はさみしさで涙が溢れました。

ロイスはその涙を拭きながら、メッセージカードを私に渡しました。
少し微笑みながら私はそのカードを開きましたが、カードの中には何もかかれておらず、
不思議に思った私は彼にカードを見せました。


するとロイスはにっこりと笑い、私に

「今一番聞きたい言葉は?」

と聞きました。

正直にいうと、わかりませんでした。
何を言っても、明日には私は日本に戻るのです。

じゃぁ、楽しかった、と書いてほしい、と言いました。
彼はウェイターにペンを頼みました。

するとウェーターはペンとケーキを持ってきました。
BGMが変わり、昔私たちがハワイにいた頃に流行っていた甘い曲が店内に響きました。
それは一度だけ二人で踊りに行ったときにかかっていたスペイン語の曲で、
スペイン語のわからない私に、甘いロマンスの曲なんだよ、と説明をしてくれた曲でした。


ロイスはメッセージカードに何かを書き込んで、
席を立ち、私の前に膝まづきました。

彼は、私にプロポーズをしたのです。



一生のうちに、一番クレイジーな事だったと思います。
あの日からから1年、私たちはハワイで暮らしています。


彼の下手な日本語で「愛です」とかかれたメッセージカードは
ドレッサーの前に私たちの写真と飾っています。


飛行機.jpg






nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

優しい時間バーボンの思い出 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。