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お局先輩 [感動]

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社会人になって初めての就職先は、自宅からそう遠くない場所にある小さな下請け会社でした。

私はそこの事務員として採用されたのです。

学生の頃とは違って個人の責任の重さというものを日々感じながら、それでもどうにか会社にも仕事内容にも慣れてきた頃。
私には、どうしても馴染めない先輩がいたのです。

その先輩は、おそらく私の母親と同じくらいの年齢で、ふくよかな体が遠くからでも分かるような外見と、大きな声が特徴の女性でした。
影で「お局さま」と呼ばれる先輩は、どうやら多くの社員たちの間で煙たがられる存在のようでした。

細かいことでちくちく小言をいうような人でしたし、特に私くらいの年代の社員のことをまるで目の敵にでもしているかのように、よく捕まえては小一時間も説教されるのです。


もちろん、私もそのターゲットの一人でした。
服装から髪型、メイクにまで口を出してくる先輩に、私はある時涙を流してしまったのです。
そんな私の顔を見て、先輩はひるむどころか更にきつい口調で「私はあなたが憎くて言ってるんじゃないの、あなたが後々困らないように、あなたの為を思って言ってるの。勘違いされては困る」とピシャリ。

いくら仕事内容が楽しくても、他の皆とうまく出来ていても、この先輩ひとりの為に私はストレスの多い日々を送っていたのでした。
家に帰って母親に泣きついても、「まだ社会人になったばかりなんだから我慢して頑張りなさい」とあしらわれるばかり。
その頃は恋人も居ませんでしたので、誰に寄りかかればいいのかわからず、ただひとりで悶々としていたのでした。


そんな先輩なのですが、時々物凄く暗い表情をしていることがあることに気が付きました。
いくらお局様とは言え、まぁ人間ですから、体調が悪かったりすることもあるでしょう。
むしろそんな時は私たちに対する風当たりもソフトになりますので、かえって有難いようなものでした。

先輩と同年代の社員の人たちはなぜか先輩には優しいようで、そんな時はとても気遣っているのが見て取れました。
それもなんだか納得がいかないことです。
いくら年が近いからと言って、普段のお局様の厳しすぎる様子を見ているはず。

所詮、長いものには巻かれるタイプの人が多いんだ…。
そんな風にも思え、早い段階で辞めてしまったほうが楽かもしれないな、と考え始めてたりしていました。


そんなある日のことです。
いつものように仕事をしていると、受付にいる社員の一人が慌てたように部屋に駆け込んできて、まっすぐにお局先輩の元へとやってきました。


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なにやら耳元で伝えると、見る見るうちにお局先輩の顔が紅潮していきました。
そして「ああ…本当に!」と声に出すと、大きな体を揺らしながらバタバタと出て行ってしまったのです。
普段のお局先輩らしからぬ様子に私は驚いてしまい、思わずドアの向こうを覗きました。(一番ドアに近いところのデスクにいることが幸いしました)


玄関の前で、先輩の肩が小刻みに震えているのが分かります。
泣いているようです。
まさかお局先輩が?信じられない思いで見ていると、大きな先輩の体の向こうに、ほっそりとした人影を見つけました。

よく目を凝らしてみてみると、どうやらそれは私と同じくらいの年代の女の人のようです。
やせ細った腕が半そでから覗いています。
背中まである長い髪は、艶を失いパサパサしています。

なんだかあまり健康とは言えないような外見だなぁと思いながら見ていると、ぽん、と肩を叩かれました。
慌てて振り返ると、いつもお局先輩と仲良くしているもう一人の先輩でした。

いけない、叱られる、と身構えていると、先輩は小さな声で私にこう教えてくれたのです。


お局先輩には双子の娘さんがいたのですが、一年前にその片割れが自殺してしまったのだそうです。
理由は失恋。
しかも、相手は自分の双子の妹のことが好きだということでフラれてしまったのです。

そのことを気に病んだ残された娘さんは精神を病んでしまい、自宅から一歩も外に出ることが出来なくなりました。
姉を追って何度も何度も自殺未遂を繰り返し、時には幻覚や幻聴に襲われることもあったそうです。

そんな娘さんを、お局先輩は根気強く看病し、時に諭し、時に包むようにして見守っていたのです。
私たちに必要以上に厳しく当たるのは、自分の亡くなった娘さん、生きている娘さんと重ね合わせて見ていたからだったのです。

あの子のように死んでほしくない、心を壊してほしくない、そんな思いから、どうしても厳しく接するようになってしまったのだとのこと。
時々、他の先輩たちに「若い子たちにどう接していいか分からない、優しくしてしまうのが怖い」と、よく相談していたのだとか。


娘さんは少しずつ少しずつ回復し、こうして母親の会社にまで来られるようになったのです。
誰の力も借りず、ひとりで。
それがどれだけ大きなことなのか。

先輩はそう言いながら、そっと涙をぬぐいました。それまでただただ怖いだけのお局先輩でしたが、そんな背景を知り、今までのすべてがとても有難く思えてきました。
大きな体を揺らして泣いているお局先輩と、その向こうで優しく微笑む娘さんの姿に、私もいつの間にか涙を流していたのでした。


お局.jpg


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タグ:感動 先輩
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