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祖母のおにぎり [感動]

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私の両親は共働きで、父親は会社の重役と言うこともあり、小さい頃から単身赴任や出張で忙しく飛び回っていました。
母親は製造関係の会社に長く勤めており、そこでのリーダーを任されるなどで残業も多く、そんな両親に代わって私の面倒を見てくれたのが祖父母でした。


私には弟が一人おり、家に帰ると決まって祖母がおやつ代わりに作ってくれる大きな大きな「おにぎり」を一緒に食べるのが楽しみのひとつでした。
祖母が作るおにぎりには具は入っておらず、シンプルにごま塩をまぶして海苔で巻いた素朴なものでしたが、そのおにぎりがとても美味しいのです。

母が作るおにぎりとはまた違い、なぜ祖母の作るおにぎりはこんなにおいしいんだろう?と、いつも不思議に思っていました。

ある時など、母が作ったおにぎりをひとくち食べて、「ばぁちゃんのおにぎりの方がおいしい」と言ってしまい、母を激怒させてしまったこともありました。
子供の素直さというものは、時に残酷なものなのだということが、今になって身に染みて分かるような気がします。


私たちが家に帰ると、いつも祖母は畑で野菜を育てるのに精を出していました。
夏は一緒にトマトに水をやり、とうもろこしを採って茹でたてをガブリ。

外で食べる夏野菜の美味しいこと美味しいこと。
縁側で弟と二人並んで野菜を食べている姿を、微笑みながら見ている祖母のあの陽だまりのような笑顔は、当時の私たちをどれだけ安心させてくれたことでしょう。
忙しい両親に代わり、私たちを育ててくれた祖父母でした。


幼馴染が遊びに来ると、決まって祖母のおにぎりを食べたがりました。
祖母のおにぎりの美味しさは折り紙つきでしたので、私の自慢でもありました。


しかし、私にもいわゆる「思春期」という時期がやってきて、だんだん祖母の優しさが疎ましさに変わっていってしまったのです。
なんにでも口をだしてくるところ、部屋にノックをしないではいってくるところ、曲がった腰…。

とにかく、些細なことが目に付くようになりました。
中でも私が一番嫌がったのが、例の「おにぎり」でした。

年齢的にダイエットという言葉にも敏感になり、また、交友関係が広がったことで他の家で出てくるお菓子の美味しさに気が付いてしまったのです。


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ある日、知人が家に遊びに来た時のことです。
当然ながら、祖母はおにぎりを私たちに作って持ってきてくれたのですが、それがとても恥ずかしく思えてしまった私。
「そんなものいらない!!恥ずかしいからばぁちゃんは来ないで!!」と、部屋から強引に押し出してしまったのです。

あとから「なんてひどいことを言ってしまったのだろう」と後悔しましたが、どうしても謝ることが出来ません。
その時の祖母の顔が、なんども頭に浮かんできました。

祖母がその時作ってくれたおにぎりは、弟が何も知らずに喜んで食べたということが唯一の救いのように思えました。


それからというもの、祖母はおにぎりを作らなくなってしまいました。
変わりにわざわざスーパーまで行って、色々なお菓子を買ってきては黙って部屋の机の上に置いていってくれるようになったのです。
私はますます謝るきっかけをなくしてしまい、そのまま時は流れていきました。


そんなある日、祖母が脳梗塞で倒れてしまったのです。
幸い、命は助かったのですが、右半身に後遺症が残ってしまいました。
リハビリのおかげでどうにか杖を使って歩けるまで回復したのですが、右手はうまく使えないようになってしまった祖母。
すっかり元気をなくしてしまい、それまで頑張っていた畑仕事も花植えも、一切やらなくなってしまいました。

時々寂しそうに畑を眺め、畑は主に祖父が管理することになりました。


私は、どうにかしてまた以前のように朗らかな祖母に戻って欲しいと願いました。
どうしたら祖母のやる気を再び引き出すことが出来るのか、自分なりに考えました。
そして、ある時、思い切って祖母にこう言ったのです。
「また、ばぁちゃんのおにぎりが食べたい」と。

すると、その日から少しずつではありますが、祖母がまた台所に立つ姿を見るようになったのです。
もちろん、隣には母の姿もあります。

祖母の病気がきっかけでパートになった母は、毎日早く帰宅しては祖母と一緒に台所に立っていました。
そしてとうとう、また祖母のおにぎりを口にすることが出来る日がやってきたのです。


そのおにぎりは、いびつで、以前のようにしっかりとは握られていないようでした。

動く左手でご飯を丸めるように掴み、その手の中で少しずつ形を丸く形成していったのだと、隣で見守っていた母が教えてくれました。

味付けは同じくシンプルなごま塩です。
懐かしいそのおにぎりをひとくち食べたとき、今までの祖母とのたくさんの思い出が一気に蘇ってくるような想いがしました。
涙ぐみながら、「ばぁちゃんのおにぎりは、やっぱりおいしいなぁ」と、ようやく口に出して言うことができた私。

祖母は、また優しそうにニコリと笑ってくれました。


おにぎり.jpg


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