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マタニティマーク [感動]

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31歳女性です。

昨年長女を出産しました。
初めての妊婦経験で不安だらけでしたが、ある出来事にとても励まされました。
そのときの記憶は今でも消えず、子育てに悪戦苦闘する私を元気づけてくれています。

妊娠が分かったとき、夫はすぐにでも休職をすすめましたが、出産経験のある職場の女子社員はみな8か月くらいまでは働いていましたので、私もそれにならうことにし、上司にも報告しました。上司は理解ある人で、比較的負荷の少ない仕事をさせてくれました。

仕事より、通勤が大変でした。

会社に着くと一日の大半の仕事が終わったような気になりました。
王子から有楽町まで京浜東北線で通勤していましたが、けっこう混雑します。
すしづめを避けるため比較的早い時間帯を選んでいましたが、それでも吊革につかまれたら幸運という混み様でした。

私の場合つわりが重かったので、匂いに敏感でした。
電車内のむっとした空気や人の体臭を嗅ぐと、気分が悪くなることがありました。
香水の匂いが特に苦手で、女性専用車両を避けた第一の理由はそれです。
とくにフローラル系を嗅ぐとすぐに気持ち悪くなりました。

電車内で座れたらまだ楽だったでしょう。
安定期に入りかけてもつわりがも消えなかったので、少しでもお腹の負担を軽くしたく、席が恋しい毎日でした。

それに立っていると危険を感じます。
電車はいつ急停車するかわかりません。
妊娠前、同じ京浜東北線でしたが、御徒町と秋葉原の間で急停車したことがあります。
吊革につかまってはいましたが、どどっと倒れてくる人の体重で床にひざと手をつきました。

今あんな目に遭ったらどんなことになるでしょう。
お腹から倒れたりしたら赤ちゃんはどうなるでしょう。
とても不安でした。

でも座れることはめったにありませんでした。
席が空いたとしても有楽町直前でした。

マタニティマーク、ご存知ですか?
自分が妊婦であることをまわりに知らせるサインです。
多くの人は鞄に下げます。

私ももちろんしてました。
通勤用のトートバッグの見えやすい位置にしっかりと下げていました。

でも、あまり意味のないものでした。

席に座っている人のほとんどは寝ているか、本を読んでるか、スマホを操作しているかで、
周囲を見ませんし、見ても人に気を遣ったりしません。
私も最初のうちはマタニティマークをしていれば人が必ず席を譲ってくれるものだと
信じて疑いませんでしたが、その考えが甘かったことを思い知らされました。

それは優先席の前に立っても同じです。
恰幅のいい、いかにも健康そうな男性がぐうぐう居眠りしています。
マタニティマークに気づいても見て見ぬふりです。

「どうして譲ってくれないのかしら」
と夫に相談したことがあります。ほとんどグチだったかもしれません。

「誰だって席に座りたいからね。楽したいからね。仕方ないかもしれないね」

ネットで調べてみても、マタニティマークに批判的な意見が目立ちます。
読んでいてショックを受けることもあります。

「妊婦さん、別に病気じゃないデショ」

ならまだ納得できます。

「自分で勝手に妊娠しといて席譲ってくれはどうかと思う」

はちょっと冷たいかなって思います。
結婚すれば誰でも子供を望むものですし、別に道楽で子供を産むわけではありません。

いずれにしても、妊婦への世間の風あたりの冷たさを痛感したのでした。


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妊娠6か月目になると腰痛が出るようになりました。
立っていても横になっていても腰が痛いのです。
ホルモンバランスや、体の重心の変化が原因のようです。
医師に相談しても腰痛体操や湿布、サポートベルトの活用といった
対症療法しかないといわれました。

それに追い打ちをかけるように仕事も忙しくなりました。
時短なので残業はありませんが、席を立って慌ただしく動き回る業務も増え、
負担も増しました。
時短勤務ですから16時30分には退社できますし、通院時の休暇も認められますが、
逆にチームメンバーが残業続きなので肩身が狭い思いをしていました。

ある日上司からこんなことをいわれました。

「宮島さん、夏のイベントは社運をかけてるし、7月いっぱいまで大変だと思う。
 今のペースでやっていける?」

思いやりのある上司ですから、
「つらかったら休職を選んでも構わないよ」
と暗にいっているのだと思いました。

「夫とも相談してみます」

今休職に入ると先輩ママの「慣例」を守ることができません。
いう人は陰でいうでしょう。
宮島聡子は6ヵ月で休職したって。

マタニティマークの件もそうですが、世間とは冷たいものだと考え始めていました。

「無理はしないほうがいい。まだつわりも残ってるんだろう?」

真剣な口調でした。
夫はすぐにでも休職に入ることを望んでいるようです。
妊婦の妻が不安定な生活環境にいることに不安があるのでしょう。
私のことを考えると、落ち着いて仕事できないのかもしれません。

休職しよう、と思いました。
夫のためにもそのほうがいいのかもしれません。

そんな朝のことです。
いつものように王子駅から電車に乗りました。
季節は梅雨に入り、車内も湿気が多くむっとしていました。

マタニティマークは付けてはいましたが、ほとんど意味がないので
バッグごと網棚に乗せていました。

目の前に30代後半くらいのスーツを着た男性が座っていました。
仕事の書類をチェックしていましたが、しばらくして私のお腹を見たのです。
そのあと上を見て、私のバッグを確かめました。

そしてすっと立ち上がったのです。

「どうぞお座りください。すいません。気が付きませんで」

驚くほど爽やかな笑顔でした。
まるで陰気な梅雨の空気の中に、花びらがぱっと舞ったようでした。

嬉しさがこみ上げました。
そんなこといわれて席を譲ってもらったのは初めてだったので、感激しました。

有楽町につきました。
「ありがとうございました」
男性は書類から目を離すと、
「とんでもありません。大切になさってください」
と微笑みました。

世の中にはこんなに親切な人もいる。
妊婦を思いやってくれる人がいる。

そう思うと頑張ろうという勇気が湧いてきたのです。
世間を悲観的に見て、グチばかりこぼすのはやめようと思いました。
その男性に恥ずかしいと思いました。

仕事も予定通り8か月になるまで勤め上げ、無事に休職しました。

今でもあの男性の爽やかな笑顔と温かい言葉を思いだすと
多少のつらさは我慢できます。

ちっぽけなことかもしれませんが、今の私には、こういう人の優しさがとても嬉しいのです。


マタニティーマーク.jpg


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