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愛犬ムギとの思い出 [感動]

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小さい頃から、「犬が飼いたい」というのが私の夢でした。
私の家には常に2、3匹の猫を飼っている状態だったのですが、犬を飼って一緒に散歩したり、色々なところに連れて行ったりということに対する強い憧れを抱いていたのです。猫の可愛らしさも十分わかっていましたし、猫の気まぐれさや手のかからないところも魅力として好きではあったのですが、やはり犬を飼ってみたいという気持ちは社会人になっても常に心にあったのでしょう。

そんな私は、初給料でついに念願の犬を買おうと決心し、家族の反対を押し切って強硬手段に出たのです。
「世話は私がするから」「お金出すのは私なんだから文句は言わせない」と着々と犬用のアレコレ準備を整えていきました。昔から言い出したら聞かない性格ですので、両親の反対も説得もまったく耳に入りませんでした。

私が選んだその子は、「パピヨン」という種類の犬でした。
ですが、パピヨン独特の顔にあるべき左右対称の柄が無かった為に血統書がつけられず、ブリーダーさんもその子の事をどうするべきか考えているようでした。血統書がつかない=雑種扱いになるのかは私には分かりませんでしたが、だからといってその子の存在価値が変わるとも思えませんでしたので、迷わずそのパピヨンを譲り受けることに決めたのです。

「ムギ」と名前を付けたその子は元気な男の子で、我が家にやってきたその記念すべき第一日目、一番反対していた父の胡坐の中に丸くなって眠るという攻め方をして無事に父のハートを射抜き、その可愛らしさと愛嬌ですんなり家族の一員となったのでした。
白い体に茶色い模様、ふさふさした尻尾を振りながら我先にリードを引っ張って走る様子は、まるで私たち人間の方が散歩に連れて行ってもらっているようでした。

そんな風に一緒に過ごしているうちに、あっと言う間に3年の月日がながれました。その間に私は結婚、出産をして実家を離れていたのですが、たまに帰ったときに喜んで寄ってくるムギを邪険に扱うようになっていました。まだ1歳にも満たない我が子にムギが寄ってくるのを見て、「ばい菌がついちゃう!」と追い払ったこともありました。この頃の私のムギに対する対応は、後悔してもしきれないほど酷い扱いだったと思います。
なぜあんなに大好きだったムギのことを汚いと思ってしまったのか、邪魔者扱いしてしまったのか。駆け寄ってきたムギをなぜ抱いてあげなかったのか。
あの頃に戻ってもう一度抱きしめてあげたいと、今更ながら思います。まさかそのすぐあとに、ムギが病気で倒れてしまうなんて思いもしなかった私は、たくさんの後悔を残してきてしまったのです。


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ある日、ムギが脳の病気に侵されていることがわかりました。
先生曰く、おそらく先天的にこの子がもっていた病気で、それが今のタイミングで暴れだしたのだろうとのことでした。顔にパピヨン独特の模様がないこともそれが理由かもしれないと。気づくのが早くても遅くても、この子が助かる道はなく、発症した途端にその病気はものすごいスピードでムギを蝕んでいきました。
あっという間に立てなくなり、ご飯も食べることが出来なくなり、横たわって息をしているだけのムギ。

ある日、母親から私の携帯に電話がきました。「もうムギは長くないかもしれない。会いに来てやって」と。こんなに早くその時がくるなんて信じられない思いのまま、私はムギに会いに行きました。泣きながら家にたどり着くと、ムギはダンボールに入れられていました。弱々しく息をしているムギに、母が声をかけました。
「ほらムギ、お姉ちゃんが来たよ。」すると、もうずっと立つことが出来なかったムギが、ダンボールの中で立ち上がったのです。小さく尻尾を振って、潤んだ瞳でしっかりと私を見つめています。そんなムギの姿を見て、私たちは全員声をあげて泣きました。後悔と寂しさと、生きてほしいと言う祈りの涙を流しました。
ちゃんと世話をするからと決めたのは私、家族に迎え入れたのも私。なのに、一番ムギを遠い遠い存在にしてしまった私。そんな私に、どこまでも大きな信頼を寄せてくれる。これが「犬」なのだと、これが「命」なのだと思いました。

ほどなくして、ムギは静かに息を引き取りました。病院で数日間点滴をうけ、もうこれ以上苦しませたくないと、その管を引き抜いた数秒後のことだったそうです。硬くなったムギを箱に入れて、体の周りにはムギが好きだったおもちゃやお菓子を入れてあげました。最後に母が、ムギの体に香水をひと吹きふりかけました。海外製のその香水を日本語に直すと、「私はまた戻ってくる」という意味なのだそうです。いつかまた戻ってきて欲しい、きっとまた会えるその日を待っているよ。そんな思いで、庭の木の下にムギを埋めてあげました。
今も静かにその木の下に眠るであろうムギを、時々ふと思い出します。またいつか出会えたら、今度はもっともっと一緒に居ようね。そんな風に思います。


パピヨン.jpg


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タグ: 感動
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