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家族の形 [感動]

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家族。
それは一番自分に身近な存在で、かけがえの無い大切な人たちだというのが一般的な考えなのでしょうか。
「友達親子」「まるで姉妹のような母娘」などというフレーズをよく耳にします。
一緒に買い物に行ったり携帯メールのやり取りをしたり、何でも隠さず話し合うことが出来るような親密な親子関係。
それは、私の目にはとても眩しく、時に羨ましく映ります。それと同時に、少し冷めた目で見てしまうことも事実です。

私の両親は共働きで、小さい頃から両親よりも祖父母によく懐いていた私。
祖父母と一緒に近所の小さなお店に買いものに行ったり畑についていったり、幼稚園バスのお見送りもお迎えも祖母の役目でした。
祖父母に育ててもらったという感覚のほうが強くあるような気がします。
どんな時でも優しく朗らかな祖父母。

そんな二人とは対照的に、いつもなんだかイライラしている母と無頓着な父のことは幼いころからどうしても好きになれずにいました。
必要以上に厳しい母は私の左利きという個性を徹底的に矯正しました。
少しでも左手を使おうとするとものすごい勢いで叱られます。

「お母さんは怖い人。お父さんはいつも家にいない人。」というのが両親に対するイメージとして私の中では出来上がってしまっていました。
その頃、父は建設会社の部長としてしょっちゅう転勤や単身赴任で飛び回っていましたので、一緒に遊んでもらった記憶はあまりありません。
こんなことを言ったら笑われるかもしれませんが、「お父さん」と呼ぶことが出来ない子供だったことを覚えています。

高校生になり、初めて仲の良い友達の家に泊まりに行った時の驚きは今も忘れられません。
家族団らんの賑やかな時間。
皆で同じテレビを見て笑い合っている光景に、軽いカルチャーショックを覚えました。

私の家では、食事が終わればそれぞれの部屋に引っ込んでしまいますし、テレビを見て笑い合うなんて考えられないことだったのです。
もちろん会話もほとんどありませんでしたし、特に私の父親は一言も喋らずご飯を静かに食べているか新聞を読んでいるような人でしたので、友達と彼女のお父さんが冗談を言い合っている姿にはなんだか戸惑ってしまったものです。

「これが普通の家族の在り方なんだ」ということに気づかされ、私ももっと頑張って両親に歩み寄れば、こんな風に楽しい時間を作る事が出来るのだろうか、と、想像してみたりもしました。
でも今更どんなに努力したところできっと何も変わりはしないだろう、という諦めの気持ちが、すぐにそんな私の淡い期待を飲み込んで消してしまったのでした。
もう十数年も、この形が私の家族の姿としてここにあったのだから、それを変えることに力を注いでも意味はないだろうと思ってしまったのです。


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そんな私も高校を無事に卒業し、その後は二年間県外の専門学校に通いました。
初めての一人暮らし、初めての県外での生活。始めは不安だらけで寂しくもありましたが、家族が恋しくなるといったことはほとんどありませんでした。
時々、「じいちゃんばあちゃん元気かな」と、年老いた祖父母を思い出すことはあっても、両親のことを考えることはなかった気がします。

一人暮らしにもようやく慣れてきた頃、突然ふらりと父が私のアパートを訪ねて来た事があります。
なんの連絡もなく唐突にやってきて、「焼肉食べに行こう。」と言うのです。

実家から電車を乗り継いで二時間の距離を、わざわざ焼肉に連れ出す為にやって来たのでしょうか。
というか、考えてみたら、今まで父と二人きりでどこかに行ったことなどありません。
一体父は何を考えているんだろう。
二人で何を話せというんだろう。
色々な思いが私の頭の中を交錯しているうちに、気付いたらもう焼肉屋さんの前でした。

一人暮らしを始めてから節約の為に外食などは控えていましたので、こんな高そうなお店に入るのか!という気持ちと、断ることも出来ずにここまで着いてきてしまったという軽い後悔を胸に入店しました。

思った通り会話が弾むことはなく、ただひたすら焼き肉を口に運ぶ無言の二人。
気まずいという思いしかありません。
何だって急にこの父親はこんな事を思いついたのか、なんだかイライラしてきました。
早く帰りたい、という思いだけで必死に肉を食べていた私にむかって、突然父がポソリと言いました。

「お前が居なくなってから、家は火が消えてしまったみたいだ。」

一瞬、耳を疑ってしまいました。
そんな風に父が思っていたなんて、そんな風に実家が静まってしまっていたなんて。

私がいたっていなくたって、何も変わることはないだろうとばかり思っていました。

父が言うに、祖父母はすっかり気落ちしてしまい、母は少し痩せてしまったそうです。
驚きと、なんだか恥ずかしさと、複雑な思いで返事に困っていると、また父が言いました。

「今日一緒にご飯が食べれて、元気な姿を見ることができて良かった。」

そう言って、また無言で肉を焼き始めた父。
実はこの時まで、専門学校を卒業したらこのまま地元には戻らずここに就職先を見つけようと思っていました。
そんな気持ちがぐらぐらと揺れるきっかけの日になってしまった気がします。

そして今、私は生まれ育った町で介護の仕事に就いています。
慣れ親しんだ風景とそこに住む人たち。そんな町並みを見ながら、時々母と出かけたりしている最近の私なのでした。


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タグ: 家族 感動
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