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バーボンの思い出 [感動]







それぞれの選択は、満足するもの、心に残るものがある。

世界が始まり、今までどれ程の男女が別れを選んだんだろう、
しかも不本意な。

そんな事を考えることが時折あります。


男性の恋愛は「別フォルダに保存」をしていると言いますが
女性は「上書き保存」といいます。


ですが、心に残らない恋愛ばかりではないと思います。



それは私が25歳の頃の話です。

心がつぶれる程、人を愛したのはその時が初めてでした。



私は当時、場末のスナックでホステスとして働いていました。
仕事終わりに訪れたバーで、彼と出会いました。
彼のシェーカーを振る美しい姿に、私は目を奪われました。

「この人と何かある」
そう思う直感は、あながち間違いではないと思います。

不思議なもので、偶然が偶然を重ね、
引き寄せられるように二人はありとあらゆる場面で出合いました。

初めは会釈だけ、次は笑顔が大きくなり、
そして会話をするようになり、食事へ誘われ、気持ちを重ねあいました。


月日は飛ぶように経ち、
私たちは一緒に住むようになりました。
何もかもが自然に、チープな言葉でいうところの
「幸せすぎて怖い」という言葉ですら嘘のように毎日が過ぎていきました。

お互いの親に紹介しあい、結婚式の具体的な話までするようになり、
将来は約束されたものと感じていました。


しかしすべてを一緒に過ごすということに固執をするようになり、
お互いが、少しのずれを愛情の薄れと勘違いをするようになりました。

普通の事であるということに気づくには二人とも幼すぎました。

そこからは転がるようにお互いの欠点ばかり目にするようになりました。
それに気付かれないように、お互いをだましながら毎日を過ごしました。


悲しいことに、「好き」の気持ちが伝染するように、不安な気持ちも伝染するようで、
お互いの一挙手一動が不安でたまらなくなりました。

次第に彼は、バーの女性客とご飯へ出かける頻度が多くなりました。
「営業」と言ってましたが、私はそれを信じることができませんでした。








そして偽りでも、彼と指を触れ合うことすらなくなっていきました。

春からこじれだした関係は、
夏を超え、2回目のクリスマスを迎えました。

クリスマスは二人で過ごそうよ、
すがる様にそう前からお互いが決めていたので、
私は翌日に有給を取り、彼の仕事が終わる午前1時を心待ちにしました。

おしゃれをして、
部屋をロマンチックに飾り付けし、お香を焚いて、彼の帰りを待ちました。

ひょっとして、心が戻るかもしれない、そう思っていました。

1時半を過ぎ、マンションの階段を上る聞きなれた彼の足音が聞えました。
私は今までにない緊張をしました。とても嬉しかったのです。

鍵を鍵穴に入れる音が聞こえると、私は玄関へ飛んでいきました。

少しお酒の匂いのする彼を出迎えました。

彼は後ろでに持っていた紙袋を私に渡し、

「プレゼント」

とそっけなく言いました。


私はとても嬉しかったのですが、続いた言葉に驚きました。

「これからお客さんと出るから。朝帰る、ごめん」

そう言い残すと彼は急いで玄関を出ました。

私は苦しくて、そしてあっけにとられ、その場にしばらく立ち尽くしました。
用意をしていたシャンパンを飲んでも眠れないまま時間が過ぎました。
1時間、また1時間と私の中で「この時間までに帰ったら迎え入れよう」
という気持ちが先延ばしになりました。

しかし朝日が昇っても彼は帰ってきませんでした。
そして納得をしました。それが彼の答えだと。

私は荷物をまとめ、家を後にしました。

マンションの隣の家が、クリスマスの飾りつけを片づけていました。
「今年も終わったねー」
とはしゃぐ声が聞こえてきました。
私も、ひとつの恋愛が終わったんだと、冷たい空気を深く吸い込みました。

次の日に何度も何度も彼からの電話がありましたが、
私は出ませんでした。
すると彼からメールで「わかった」という一言が送られ、
そこで私たちの物語は終わりました。


それから何年か経ち、人伝いに彼が結婚をしたことを聞きました。
不思議な気持ちでした。
おめでとうという気持ちも、やっかみもなく、

ただ、そうなんだ、という確認だけ。


結果的に彼との恋はハッピーエンドではありませんでしたが、
今の私を作った歴史だと思うと、それもとても愛おしく思えてきます。

そんなこともあったなぁ、と、彼のおかげで好きになったバーボンを飲みながら、
たまに、思い出してみるのです。


バーボン.jpg






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