SSブログ

子猫が教えてくれた [感動]

スポンサードリンク








ある日、我が家に小さな小さな訪問者がありました。
微かなその泣き声は、行きかう車の騒音に簡単にかき消されてしまうほど弱々しく、聞き逃してしまってもおかしくないほどのものでした。
その泣き声に最初に気が付いたのは、小学五年生になったばかりの私の娘で、「お母さん、赤ちゃんが泣いてるみたい」との声に耳を澄ましてみると、確かに小さな泣き声が聞こえるのです。慌てて外の様子を見に行くと、灰色の綿ぼこりの塊の様な存在がうずくまっているではありませんか。
なんだろう?と思って恐る恐る近付いて見たそれは、生まれてそれほど経っていないであろう子ねこだったのです。

小刻みに震える体は痩せ細り、骨が浮き出るほど。
両目は多量の目ヤニでつぶれ、時々か弱いくしゃみをしています。
直感的に、「このまま放っておいたら近いうちに死んでしまう」と思いました。
どうしたらいいだろうと迷っていると、隣にいた娘がすかさずその汚れた子猫を抱き上げ、しっかりとその胸にかかえました。

「お母さん、病院に連れて行って。」

もともと動物好きの私ですので、電話帳で調べた一番近くの動物病院へと車を走らせました。
初めて足を踏み入れたその病院は、明るく清潔感のある綺麗な病院でした。戸惑っている私を、優しそうな先生が診察室へと誘導してくれます。
たどたどしい手つきで診察台にその子猫を乗せると、体重はわずかに400グラム。重い結膜炎と、感染症に犯されていることが分かりました。

病院が準備してくれた子猫用の餌をすごい勢いで食べている姿にホッとした私たち。
保護した猫だと伝えると、「どうされますか?」と聞かれました。

娘に言われるままに病院へ連れて来たものの、その後のことはまったく考えていなかったものですから、すぐに返事をすることが出来ずに迷っていると、ふと壁に貼られたたくさんの里親募集のチラシが目に入りました。

犬に猫、こんなにもたくさんの小さな命が、行く先もなく増え続けているという現実がそこにはありました。
隣で心配そうに子猫を見ている娘。私は、とりあえず里親募集も視野に入れながらいったん自宅へ連れて帰ることに決めました。
その時の安心したような先生の顔がとても印象的でした。

点眼薬と飲み薬を処方され、使い方や飲ませ方をとても丁寧に教えて下さいました。
「無理にお宅で飼われなくても、もし里親募集されるなら当院でも協力しますので」と心強い声をかけて頂きました。
大きな手で優しく子猫を撫でながら、「お前、いい人に見つけてもらったな」と笑う先生の隣で少し誇らしげな表情の娘に、なんだか私もついつい笑顔になってしまいました。


スポンサードリンク








とは言え、今まで猫を飼った経験の無い私たち。
すべてのことに戸惑ってしまいました。それよりもなによりも、何も知らないまま帰宅した私の旦那は、子猫の姿を見た瞬間に石のように固まってしまいました。
「俺は知らない。俺は何もしない」とまるで無関心。
そんな旦那の態度にがっかりしたりイライラしたり。それに加えて、薬を飲ませる、目薬をさす、トイレをさせる、ご飯を食べさせる…。すべてが手探り状態です。

自宅へ連れ帰ってしまったことを早くも後悔し始めた私。
命を預かるということを安易に考えてしまった自分がとても情けなくなってしまい涙ぐんでいると、娘が積極的に子猫の世話を焼き始めました。

「お母さん、大丈夫だから。お母さんは私のことをちゃんとここまで育ててくれたんだよ。この子は私も一緒に育てるから。」

私の不安そうな顔を見て、何かを感じとってくれたのでしょう。
五年生になったばかりの娘が、急に頼もしく見えました。そしてこう思いました。
この子猫がここにやって来たのもきっと運命。捨てる人がいるなら、私は助ける人になろう。
娘に後押しされたようにも感じました。日に日に子猫は元気になり、少しずつ目ヤニも少なくなっていきました。
ヨタヨタと頼りない歩き方も、次第に力強くなってきました。
小さな目、小さな口、すべてのパーツがミニサイズで儚げなのに、この子はしっかり命をもってここにいる。
そのことが、なんだかものすごく大きな事を伝えてくれているように思える日々。

始めのうちは無関心で否定的だった旦那も、その子が回復していくに連れて情が移ったようで、積極的に手伝ってくれるようになりました。
いつもの日常に、新しい色が増えたようです。

すっかり元気になったその子をきちんと我が家の家族として迎え入れる事を決めた日、娘が私にこんな事を打ち明けてくれました。
「お母さん、私、大人になったら動物のお医者さんになるよ」。キラキラ輝く笑顔で、「キラ」と名づけた子猫を抱きながら言う娘。
キラが我が家に来た時、なんの迷いもなく汚れたキラを抱きあげた時の娘の顔と重なりました。
きっとこの子は、その将来の夢を叶えるだろう。その時、大きくなったキラがまだこの家で元気にしていてくれたらいいな。そんな風に思えたのでした。


子猫.jpg


スポンサードリンク






タグ:感動 子猫
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

看護師さんとの交換日記私らしさ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。