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先生のお願い [感動]

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子供の頃は、善悪の判断がつきにくいものです。
これを言ったら相手が傷つくだろうということを予測することも下手なので、悪意はなくてもぽろっとこぼした一言で誰かを深く傷つけてしまうことも多いと思います。
「子供は正直」という言葉を耳にすることがありますが、思ったことをすぐに口に出してしまうという性質を持った、まさに「小さな爆弾」とも言えるのではないでしょうか。
そんな子供たちに、善悪の判断や、相手を思いやる気持ち、言って良いことと悪いことの区別といったことを教えるのは、両親や家族だけでなく、特に子供たちと関わることの多い学校の先生の大切な役目だと思うのです。

私が小学生だった頃、同じクラスに生まれつき髪の毛が生えてこないクラスメイトがいました。
遺伝の関係だと思うのですが、髪の毛だけでなく、眉毛に睫毛、体毛、すべてが生えてこないのです。
そういった特徴のある仲間がいたわけですが、小さな町の小さなその小学校は、ほとんどの生徒が幼稚園からそのまま持ち上がりなので、そんな仲間に対して違和感を覚えることなく一緒に過ごしてきていました。
髪の毛がない頭を衝撃から守る為、その子はいつも網状のネットを被って生活しています。
そんなスタイルも含め、幼い頃から一緒に過ごしてきた仲間の姿はもう私たちにとっては自然だったのです。
他の人の目には一種の驚きをもたらすかも知れないその風貌に疑問を抱く人はおらず、そのことを馬鹿にしたりいじめたりするような子もいませんでした。


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その子は物凄い努力家でもあり、特にマラソンの能力は群を抜いていました。
毎朝お父さんとマラソンの練習をしており、その子に敵う子は誰一人いません。
マラソンに打ち込んだ理由を、「容姿のことで誰かに何かを言われても負けない強い心を作るため」だったと、後にその子のお父さんが教えてくれたことがあります。
子供心にも素晴らしい教育だと思ったことを今でも覚えています。
私たちはその子に髪の毛や眉毛がなくてもおかしいと思ったことはありませんし、馬鹿にする人が現れるなんて思ってもみませんでした。
あまりにも自然に私たちの中に溶け込んでいたのです。

ある日、その子が風邪で学校を休んだ日がありました。
普段あまり体調を崩すことのない丈夫な子でしたので、欠席は珍しいことでした。
その日、放課後のホームルームの時間、担任の先生が「○○のことで話しておきたいことがある」といいました。
改まって、いったいなんだろうと思っていると、先生がこんなことを話し始めました。

「○○に髪の毛や眉毛がないことを、このクラスの皆は誰一人からかったりいじめたりしない。それはとても素晴らしいことです。先生も、こんなクラスを持てた事を嬉しく思う。ただ、これから中学、高校へと上がっていく際、いろんな場面で○○は嫌な思いをするかもしれない。容姿の事で傷つくことを言われるかもしれない。そんな時、どうかみんなで○○のことを守ってやってください。先生のお願いです。」そう言って、私たちに向かって頭を下げました。
このとき、私たち生徒には、一種の強い連帯感のような使命のようなものが生まれました。
これから先、○○くんがいじめられたり笑われたりしたら、必ず私たちが盾になるんだという強い思いがこみ上げてきました。

彼は私たちの前では弱音を吐くことはなく、いつも笑ってクラスの中心にいるような明るい生徒でした。
ですが、家では自分が皆と違うことで悩んだり、買い物などで普段行かないような場所に行くことを嫌がることもあるのだということを知りました。
知らない人の目を気にしているのだという事実を知り、その子の底知れない明るさと強さの裏に潜む弱さや恐怖、疎外感を、幼い私たちは知らないでいたのです。

特に子供の頃というものは、周りと同じであることが何よりも重要だったりします。
みんなと同じがいい、皆とお揃いがいい。そんなことにこだわる時期です。
そんな時に、外見上の違いというものを抱え、それでもその不安を私たちに悟らせずにいた○○くん。
あまりにも自然な姿に気付かなかったけれど、きっと小さな心はいつも小波だっていたことでしょう。
そんな彼の精神的なサポートとして毎日毎日マラソンを一緒に続けていたお父さんの愛情、彼をどうか守っていってほしいと子供の私たちに頭を下げた先生。私たちに出来る最大限のことをしなければならないと思わせられました。

その後私たちは中学、高校と進学しました。

数名が○○くんと同じ高校まで一緒でしたが、彼が嫌な思いをしてしまいそうな場面では、必ずさりげなく傍にいたそうです。
大人になり、外でお酒を飲むことを嫌がる○○くんに対して、「お前がお前を恥じるなら、オレも自分を恥じる」と泣きながら話した友人もいました。
皆、あの時の先生の「お願い」を、今でも守り通しているのです。
それはクラスの全員に課せられた使命なのだから。
彼はその時の先生のホームルームの内容を今も知らずにいるでしょう。でも、それでいいのだと思います。
大切な仲間は、外見がどうであれ何も変わりはないのです。


ホームルーム.jpg


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