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ドラえもん「のび太、靴屋の店長になる」 [感動]

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2012年 東京某所の靴屋

のび太「いらっしゃいませ。」

?「すいません。こちらのお店は靴の修理はやっていらっしゃいますか?」

のび太「はい。当店でお買い上げいただいた商品でしたら。」

?「あ、いや。買ったのは別のお店なんでs・・・・・・のび太君?」

のび太「えっ?」

?「のび太君だよね?」

のび太「はぁ、左様ですが・・・・・・」

?「僕だよ。覚えてない?」

のび太「・・・・・・!? 出木杉君!?」

出木杉「思い出してくれたかい?」


のび太「出木杉君!ごめん、一瞬分からなかったよww 久しぶりだねぇ!」

出木杉「ホント久しぶりだねぇ。中学以来かなぁ?」

のび太「そうなるねぇ。僕ら、高校は別々だったから。」

出木杉「懐かしいなぁ。のび太君、靴屋さんに就職したんだ。」

のび太「うん、そうなんだ。」

のび太「あっ、ところでさっき言ってた修理って? ちょっと深刻そうな顔に見えたけど・・・・・・」

出木杉「あぁ、実はね、この革靴の底を張り替えたいんだけど・・・・・・」ガサゴソ

のび太「どれどれ・・・レザーソールか。結構磨り減ってるね。」

出木杉「就職祝いで父に買ってもらった大切な靴なんだ。今までに底は2回張り替えたんだけど、まだ張り替えられるなら張り替えたいと思って。」

のび太「そっかぁ。その2回張り替えてくれたお店ってのは?」

出木杉「会社の近くにあったんだけど、先月に廃業しちゃってね。他に修理してもらえるお店はどこかないかと探してるんだ。」

のび太「なるほどなぁ・・・・・・うん、分かったよ。うちで修理しよう。」

出木杉「えっ? 良いのかい? このお店で買った物じゃないのに。」

のび太「良いよ良いよ。基本、他店の商品は修理中に何かあっても保証ができないから断ってるんだけど、君とは昔のよしみだからね。修理させてもらうよ。」

出木杉「うわぁ、助かるよ。ありがとう、のび太君。」

のび太「どういたしまして。ただ、外底だけの張り替えじゃ済まなさそうだなぁ。」マジマジ

のび太「コルクの交換も必要かも知れない。」

出木杉「コルク? 何なの、それ?」

のび太「見たトコロ、この靴はグッドイヤーウェルトという製法で作られてるんだ。グッドイヤーウェルトは両底にコルクのクッションを挟むんだけど」

出木杉「???」

のび太「あぁ、ごめん、ちょっと分かりにくい説明だったねww」

のび太「まず、出木杉君が張り替えて欲しいって言ってた、この地面と直に接する底。靴裏と言い換えても良いね。これを外底と言うんだ。」

出木杉「うん。」

のび太「そして、靴を履いた時に足の裏と接する、靴の内側の底。これを中底と言うんだ。」

出木杉「あぁ、確かにどちらも底と言えば底だね。」

のび太「そうなんだよ。ややこしいよねww」

のび太「それで、さっき言ったグッドイヤーウェルトっていう製法は、この外底と中底の間にコルクのクッションを挟んで作るやり方なんだ。もちろん他にも特徴はあるけど、ここでは省略するよ。」

のび太「コルクのクッションは、持ち主の足裏の形に合わせて変形するから、すごく足に馴染みやすくて履き心地が良いんだ。」

出木杉「確かに。履き始めの頃より今の方が楽だ。」

のび太「そうでしょ? それがグッドイヤーウェルトの魅力の一つなんだ。ただ、あまりに変形しすぎると、外底の張り替えの時に一緒に交換しなきゃいけなくなる。」

出木杉「えっ? どうして? せっかく足に馴染んできたのに?」

のび太「うん、張り替えに使う新品の外底は真っ平らだからね。凹凸の付きすぎたコルクだと、その真っ平らな外底と上手く着かないんだ。」

出木杉「あっ、なるほど!」

のび太「出木杉君のこの靴は、まさに今言った凹凸が付きすぎてる状態なんだ。だから外底と一緒にコルクも替える必要があるんだよ。」

出木杉「なるほど、そういう事かぁ。」

のび太「だから外底交換とコルク交換を合わせて・・・・・・うん、10000円かな。」

出木杉「!? そんなに安いの!? 前の修理の時は外底交換だけで15000円ぐらいだったよ!?」

のび太「いや、もちろん普通はそれぐらいするよ、レザーソールだしね。でも、今回はちょっとオマケしとくよ。」

出木杉「いやいやいや、良いよそんなの! ただでさえワガママを聞いて修理してもらうんだから。この上、値段まで負けてもらうなんて・・・・・・」アセアセ

のび太「良いよ良いよ。気にしないで。流石に旧友から利益を取る気になんてならないからww」

出木杉「のび太君・・・・・・」

のび太「大丈夫だよ、ホントに。気にしないで。ただ、今、交換用のレザーソールのパーツがないから、入荷待ちと修理工程を含めて、1ヶ月ほど猶予をもらいたいんだけど、良いかな?」

出木杉「うん、それは一向に構わないよ。こんな格安で修理してもらえるなら、いくらでも待つさ。」

のび太「助かるよ。じゃあ、申込書に名前と電話番号を書いてもらえるかな?」サッ

出木杉「分かった。」サラサラッ

のび太「ありがとう。じゃあ、修理が終わったらまたこの番号に電話するから、そしたらいつでも都合の良い時に取りに来て。お代はその時で良いから。」

出木杉「のび太君、何から何までホントにありがとう。」

のび太「やめてよww 普通に仕事をしただけだからww 照れ臭いよww」


出木杉「のび太君、変わったね。」

のび太「えっ? そうかな?」

出木杉「うん、変わったよ。なんて言うか・・・・・・失礼な言い方だけど、すごくしっかりして、頼りになる感じになった。」

のび太「昔は僕、頼りなかったもんねぇww おまけにバカでマヌケでww」

出木杉「その上、ドジでぐうたらだったww」

のび太「おいコラ、言い過ぎだろww」

出木杉「wwwwww」

のび太「wwwwww」

出木杉「でも、ホントにすごいと思うよ。さっきの修理の説明もすごく分かりやすかったし。『プロだなぁ』って感じがしたよ。」

のび太「いやいや、あれは靴屋の基本の“き”だよ。入社1年目で覚える事だから。」

出木杉「そうなんだ。じゃあ8年目の今は、もっとすごい知識を持ってるんだね。」

のび太「僕はまだ5年目だよ。中途入社だからね。」

出木杉「あっ、そうなの? 前は何の仕事を?」

のび太「いや、僕は・・・・・・」



のび太「・・・・・・25歳まで、引きこもりだったんだ。」



2002年。のび太20歳の誕生日。

この日、ドラえもんは未来に帰って行った。



高校に入った頃から、のび太は少しずつドラえもんの道具には頼らなくなってきた。

部活は弓道部に入った。

幼少の頃よりモデルガンの射撃には定評のあったのび太。

和弓とモデルガンではいささか勝手が違うが、コツを掴めば持ち前の射撃精度を発揮し、メキメキと頭角を表し始めた。


人間とは、何か一つでも夢中になれる物が見付かれば変わるものである。

弓道に打ち込み出した辺りから、のび太は学業の成績も少しずつ向上させ始め、3年生の夏頃には都内の比較的偏差値の高い大学にも手の届くレベルとなっていた。

努力する事の楽しさを知ったのび太にとって、ドラえもんの道具はもはや必要ではなくなった。

悩み事があれば必ずドラえもんに相談する。

だが、道具は借りない。

そして自分の言葉で、体で、意志で解決する。



のび太が大学に入った時、ドラえもんは四次元ポケットを未来のせわしの家に預けた。

のび太からそう申し出たのだ。


『まるでドラえもん自体が道具であるかのように考えていた、当時の自分が許せないんだ。』


こんなにも嬉しい言葉はなかった。

ロボットの人権が認められている22世紀の世界ですら、依然としてロボットをただの道具や機械とみなす人は少なくない。

なのに、100年も前の時代に生きるこの少年の、何と優しい事か。

ドラえもんは泣いた。

僕に涙を流す機能があって良かった。

僕がどれだけ幸せか、彼に伝える事ができる。

そこにはただ、野比のび太とドラえもんという、
2人の親友だけが残った。



20歳の誕生日。

のび太は大学からの帰り道、パパ・ママ・ドラえもんに、それぞれプレゼントを買って帰った。

ママのお気に入りの洋菓子店のプリン、パパが社会人になった頃から贔屓にしているブランドのネクタイ、そしてあんこがたっぷり詰まったどら焼き。

この20年間、実に19回も誕生日を祝ってもらい、プレゼントを貰った。

ならばたまには、20年目の節目ぐらいは、こちらからプレゼントを渡しても良いのではないかと、のび太は考えた。

産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう、と。

ママもパパもドラえもんも、プレゼントを見て非常に驚き、そして目を潤ませて喜んでくれた。



そしてドラえもんはその夜、未来へ帰る事をのび太に告げた。


のび太の成長を目の当たりにし、もう自分の助けは必要ないと確信したと言う。

ドラえもん「君はもう大丈夫だよ、のび太君。」



のび太にはワケが分からなかった。

大丈夫って何が?

僕はもう、ドラえもんに頼ろうなんて思っちゃいない。

ただ、親友とずっと一緒にいたいだけなのに。

なのに帰ってしまう?

なんで?

なんで?


頭の中でいくつもの言葉が飛び交った。

しかし、それは口には出さなかった。

頭は混乱していたが、一方でどこか冷静な自分がいた。

その冷静な自分は分かっていた。

ドラえもんがいつか、未来に帰ってしまう事を。

ふと、高校の卒業式の日を思い出した。

のび太は職員室を訪ね、お世話になった弓道部の顧問の先生に挨拶をした。

あの時、先生は今までに見せた事のない優しい目をしていた。

一人の人間を立派に育てた充足感、その人間の今後の幸せを願う慈愛、そして、愛しているが故の淋しさ。

様々な暖かい感情がない交ぜとなった、とても優しい目。

今のドラえもんは、あの時の先生と同じ目をしている。

ならば、この別れは避けられない。

いや、避けてはいけない。



のび太はありったけの言葉で感謝を伝えた。

伝え続けた。

涙が止まらず、嗚咽で声が裏返っても、ドラえもんの丸い手をしっかりと握り、必死にありがとうと言った。

一緒に冒険をした。

一緒に色んな場所に行った。

ケンカもたくさんした。

それと同じだけ仲直りもした。

ドラえもんと出会えて本当に良かった。

ドラえもんと過ごした日々はとても幸せだった。

ドラえもん、ありがとう。

僕はドラえもんが大好きだ。

ありがとう。

ありがとう。

ありがとう。



ドラえもんがのび太に伝えようと思っていた言葉は、のび太が全て先に言ってしまった。

相手に対する想いは、お互い同じだったから。

なので、ドラえもんはただ黙って、泣きながら笑って、のび太の手を握り返しながら、優しく頷いていた。

二人の頭上を、夜がゆっくり流れていった。



やがて、窓の外に広がる空が白み始めた頃、別れの時がやって来た。



のび太に見送られながら、ドラえもんは机の引き出しを開けた。

のび太は、泣いていなかった。

最後は笑顔で別れると決めたから。

ドラえもんの体が徐々に引き出しへと入ってゆく。

まるで水平線に沈み行く夕陽のようだ。

ドラえもんの丸い頭が少しずつ、引き出しの中へと消えてゆく。

のび太の脳裏を、狂ったように思い出が駆け巡る。

目に写る映像、写らない映像。



スローモーション。



そしてついに、青い夕陽は沈んでしまった。

引き出しが閉じられる。

静寂が訪れた。



ドスンッ!

のび太は膝から崩れ落ちた。

そして、部屋に立ち込める静寂を追い払うかのように、声を上げて泣いた。

涙は無尽蔵だ。

さっきあれだけ泣いたのに。

こんな明け方に大泣きしたら、きっと近所迷惑だろうな。

でも、止められない。

涙と、悲鳴のような嗚咽は、後から後から沸き上がってくる。


ドラえもんは



もう



いない。











それから1週間後。




のび太は部屋から出て来なくなった。




2012年 東京某所の靴屋

のび太「いらっしゃいませ」

?「わぁ! のび太さん! ホントにいたんだぁ!」

のび太「!? じ、ジャイ子ちゃん!?」

ジャイ子「流石のび太さん! アタシの事、覚えててくれたのね!」

のび太「あ、あぁ。まぁね。」

のび太(忘れろって方が無茶でしょ.....)

ジャイ子「出木杉さんから、のび太さんがこの近くの靴屋さんで働いてるって聞いてね。それで見に来たのよ。」

のび太「あぁ、出木杉君が.....って、あれ? 出木杉君とジャイ子ちゃんって、そんなに絡みあったっけ?」


ジャイ子「子供の頃はそんなになかったわね。お兄ちゃんが中1の頃、テスト前になると出木杉さんを家に無理矢理連れてきて、その時に何度かお話ししたぐらいかなぁ?」

のび太(ジャイアンェ・・・・・・・)

のび太「じゃあ、出木杉君からどうやって話を?」

ジャイ子「Facebookよ。出木杉さんがこないだ、のび太さんの事を近況に書いてて。」

のび太「あぁ、なるほど。『相変わらずドジでぐうたらだった』とか書いてたの?ww」

ジャイ子「違うわよww のび太さんの事を絶賛してたの! 『親切・丁寧な接客で、まさにプロって感じでした。同じ社会人として見習わねば!』って。」

のび太「大袈裟だよぉww」

ジャイ子「それでね、アタシもちょうどパンプスが欲しいと思ってたから、のび太さんに会うついでに何か選んでもらおうかと思って。」



のび太「あぁ、それはもう喜んで。」

ジャイ子「だけどねぇ、アタシの足に合うパンプスってなかなかないのよ。歩いてるとすぐ痛くなってきちゃって。」

のび太「ふむふむ」

ジャイ子「大学の頃は多少痛くても無理して履いてたんだけどね。今はもう痛いのが億劫で。最近じゃ、お店で試着した瞬間から痛かったりもするし。」

のび太「分かるよ。歩く度に痛いんじゃ辛いもんね。」

ジャイ子「そうなのよ。だから今はもう夏はクロックス、夏以外はスニーカーって感じでorz」

のび太「ははっ。確かにクロックスもスニーカーも楽だしね。」

ジャイ子「でも、それじゃ男の子みたいじゃない。もっとヒールの高いカワイイ靴も履きたいなぁと思って。」

のび太「なるほど。じゃあさ、そのイスに座って、靴を脱いでもらえるかな? 足を見せて。」

ジャイ子「分かったわ。」ヌギヌギ

のび太「」ジー

のび太(幅広、甲はまぁ普通、それに外反母子か)

のび太「うん、だいたい分かったよ。じゃあさ、こういう甲にストラップがかかってるのはどうかな?」ヒョイ



ジャイ子「あっ、カワイイ! でも、ヒールが......」

のび太「うん、確かにヒールは高い。でもね、この靴なら絶対痛くならないよ。理由があるんだ。」

ジャイ子「理由?」

のび太「まぁ、それは追々説明するから、とりあえず履いてみて。これ、24.5センチだから。」

ジャイ子「えっ? どうしてアタシのサイズを......」

のび太「足を見れば分かるよ。」

ジャイ子「!!」ドキッ

ジャイ子(すごい......ホントにプロだ......)スポッ スポッ

のび太「履けたね。じゃあ立って、歩いてみて。」

ジャイ子「あっ、はい。」スタスタ

のび太「」

ジャイ子「」スタスタ

のび太「」

ジャイ子「」スタスタ

のび太「どう?」

ジャイ子「......痛くない。えっ? なんで? 痛くない!」


のび太「ジャイ子ちゃんは足の幅が広いみたいだからね。少し幅が広めのパンプスを選んだんだ。それと、そのパンプスは中が深くてね。深いから外反母子の骨の出っ張りをスッポリ包んでくれる。そうすれば痛くないんだよ。」

ジャイ子「そうなの? 確かに全然痛くないけど。」

のび太「外反母子ってのは、靴の外にハミ出して履き口の淵に擦れると痛いんだ。スッポリ包んじゃえば擦れないからね。」

ジャイ子「そうなんだ。」

のび太「尚且つ、そのパンプスはアッパーに羊の革を使ってるんだ。」

ジャイ子「羊?」

のび太「うん。羊の革は柔らかいから、多少締め付けられても痛くないんだよ。そして、外反が当たる部分にも飾りの縫い目が入ってない。縫い目が入ってると革が伸びにくくて後々痛くなる事があるんだけど、その靴は縫い目がないからよく伸びるんだ。だから、さっき言ってた『歩いてたら痛くなる』って心配もない。」


ジャイ子「ホントに!? もうね、靴を買ってもそれだけが心配で心配で。」

のび太「ヒールを履く女性は誰でも経験する事だろうね。それともう一つ。そのパンプスは甲にストラップが着いてるでしょ?」

ジャイ子「えぇ。」

のび太「パンプスはカカトと幅で足を締めて固定するんだけど、特に一番負荷のかかる幅、つまり親指と小指の付け根だね。そこは痛くなりやすいよね。ジャイ子ちゃんみたいに幅の広い人は特に。けど、これみたいにストラップが着いてるタイプは、幅にかかる負担を減らしてくれるんだ。要は負担を、幅とストラップに分散するワケだね。」

ジャイ子「そうなんだぁ!」

ジャイ子「すごいわ、のび太さん! ホントに楽! さっきからずっと履いてるけど、全然痛くないもの!」

のび太「このパンプスが、ジャイ子ちゃんの足の形と相性が良いんだよ。相性の良い靴なら絶対に痛くならないからね。」

ジャイ子「決めた。のび太さん、このパンプス買います。もうこれは買うしかないわ。」

のび太「ありがとうございます。」

のび太「じゃあ、14700円で。」

ジャイ子「えっ? さっき、値札には18900円って......」

のび太「マケとくよ。出木杉君の時もこれぐらいマケたからね。」

ジャイ子「ホントに? ホントに良いの? 上の人から怒られない?」

のび太「大丈夫だよww 今月は結構よく売れてるから。ノルマは余裕で達成できそうなんだ。友達の妹から利益を取らなきゃいけないほど切迫はしてないよww」

ジャイ子「助かるわぁ。ありがとう。はい、じゃあこれで。」

のび太「はい、15000円お預かりの300円お返しです。ありがとうね。」

ジャイ子「今日はホントに良いお買い物ができたわ。のび太さん、またちょくちょく来るわね。」

のび太「どうぞどうぞ。来月にレディースの新作をドカッと入荷するから、その時来てくれたら、また何か良いのをご案内させていただくよ。」

ジャイ子「楽しみにしてるわ。ありがとう。それじゃ。」

のび太「どうもありがとう。」

ジャイ子「~♪」スタスタ

のび太「」



のび太「......ジャイ子ちゃん!」

ジャイ子「なに?」クルッ

のび太「あのさ......」



のび太「......ジャイアン、元気?」





2002年

ドラえもんが未来に帰ってから1週間後、のび太は大学とバイトをサボった。

誕生日のあの日、ドラえもんとの思い出を胸に、前を向いて生きていこうと心に決めた。

だが、最愛の親友を欠いた日常、そこから生まれる孤独は、誰の手にも負えない驚異的な速さでのび太の心を蝕んでいった。



大学に行っても、講義に身が入らない。

学友の声は上の空。

バイト先ではミスを連発。

そして帰宅し、自室のふすまを開けても、もう部屋には誰もいない。

ヒビが入り、軋み続けるのび太の心。

その心が崩落を始めるまでに要した期間が、1週間であった。



以来、のび太は学校にもバイトにも行かず、1日の大半を部屋で過ごす日々を送るようになる。

世に言う引きこもりである。



パパとママも、ドラえもんが帰ってしまった淋しさから来る、一時的な行動だろうと考え、最初は深くは問い詰めなかった。

しかし、1週間、2週間、3週間、そしてついには1ヶ月が経過しても変化が見られない。

大学もこのままでは確実に留年してしまう。

いよいよ両親も業を煮やし、ある夜、のび太をダイニングに呼び出して話を聞こうとした。



一体どうする気なんだ。

のび太は、目を合わせず答えた。



どうする気もない。

と言うか、もう“何かをする気”自体、持ちたくはない。



パシンッ!

ほぼ反射的に、パパの右手はのび太の頬を張っていた。

親が子に施す躾としてのそれではない。

同じ人間として許せない発言をした者に向ける、等身大の武力行使。

つい1ヶ月前までは、世界一の自慢の息子だった。

その息子に対して、まさかこんな苦々しい一打を行使する事になるなんて。

のび太は涙を滲ませた瞳でパパとママを睨み付けると、無言で席を立ち、ダイニングの扉を後ろ手で乱暴に閉じながら、部屋へと戻って行った。

ダイニングにはママのすすり泣く声だけがこだまする。

パパは溜め息をつきながらタバコに火を着けた。

しかし一口吸ってすぐ、灰皿へと投げ込む。

火種を消す気力もない。

息子は、我が家は、どうなってしまうんだろう。



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2012年 東京某所の靴屋 スタッフ控え室

のび太「ふぅ~。ちょっと食べ過ぎたかなぁ。」

のび太「でも、これでチャージ完了だ。さっ、午後からも売るぞぉ~。」ガチャッ

のび太「休憩あがりまs」

?「おかしいじゃございませんこと!?」

のび太「!?」

バイト「あっ、えっと・・・・・・」

?「お店の方が商品の説明もおできにならないなんて、どうなってるざます!?」

のび太(“ざます”?)



バイト「あっ、あの......すいません僕、バイトでs」

?「じゃあお話のお分かりになる方を呼んで来て下さいまし!!」

サッ


のび太「バイト君、代わるよ。」

バイト「あっ、野比さん。すいません。」スゴスゴ

のび太「申し訳ございませんお客様。いかがなさいましたか?」

?「アタナは責任者ざますか!?」

のび太「はい。副店長の野比と申します。」

?「まったく! 一体こちらのお店は・・・・・・えっ? 野比さん?」

のび太「スネ夫君のお母様・・・・・・ですよね?」

スネママ「!? のび太さんざますか!?」

のび太「はい。ご無沙汰しております。」

スネママ「あらぁ、こんなにご立派になられて! お母様はお元気ざますか?」

のび太「えぇ。お陰さまで。」

のび太「それより骨川さん、先ほどは当方のスタッフが不快な思いをさせてしまったようで。」

スネママ「もう良いざます。スネちゃまのご友人のお顔を見たら、少し落ち着いたざます。もう大きな声は出しませんので、聞いていただけますこと?」

のび太「はい。もちろんです。」


スネママ「今日はスネちゃまの昇格祝いのプレゼントで、お仕事用のお靴を買いに来たざます。」

のび太「それはそれは。おめでとうございます。」

スネママ「スネちゃまはこういったデザインで、ダークブラウンのお靴がお好きざますの。」

のび太「ダークブラウンのストレートチップですか。カッコイイですよねぇ。当店でも大人気ですよ。」

スネママ「オホホホッ。スネちゃまのファッションセンスは一流ざますからね。」

のび太「はははははっ。」

のび太(まぁ、スネ夫の事だ。きっとスーツも良いの着てるんだろうなぁ。)


スネママ「ところがね、のび太さん。こちらの棚の右のお靴と左のお靴。どちらも同じデザインで、お色も同じダークブラウンですのに、10000円もお値段が違うじゃございません事?」

のび太「えぇ。確かに。」

スネママ「そこでワタクシ、先ほどの方に、このお値段の違いは何なのかとお尋ねしたざます。そしたらあの方『こっちの方が履き心地が良いから高いんです』なんて、曖昧なお返事しかして下さらなかったざます。」


のび太「あぁ、左様ですかぁ。それは大変失礼をいたしました。」

スネママ「いえ、もうよろしいざますがね。ただ、履き心地が良いから高いのは当たり前でございましょ? ワタクシとしては、具体的に何が違って、どんな風に履き心地が良いのか、そういったご説明をしていただきたかったんざます。」

のび太「おっしゃる通りです。失礼をいたしました。」

スネママ「ワタクシ、質の良い物を手に入れる為にはお金は惜しみません。ですが、その物の質を把握し、それ相応の対価が見出だせなければ決して買わない。それがワタクシのお買い物のポリシーざます。」

のび太「かしこまりました。では、僕からご説明をさせていただきます。」

スネママ「お願いするざます。」



のび太「確かにこの両者は似ていますが、アッパーに使っている革の素材がまず違うんです。」

スネママ「えぇ、えぇ。」

のび太「右の安い方の靴はキップと言いまして、生後半年から2年以内の若い牛の革を使っています。」

スネママ「キップ。存じているざます。あっ、では、左の高い方のお靴は・・・・・・」

のび太「はい。カーフを使用しております。」

スネママ「生後半年以内の幼牛の革ざますね。」



のび太「流石、よくご存知で。牛革は牛の年齢が若ければ若いほど、伸縮性、通気性、汗の吸収力が良くなります。しかし、若い牛ほど体の面積が小さいので、採れる革の量も少なくなります。それ故、カーフの方が高いんです。」

スネママ「なるほど。」

のび太「それともう一点。こちらのカーフの革は、一旦、ダークブラウンで均一に染めた後、わざと色を落として色ムラを付けているんです。」

スネママ「なぜそのような事を?」



のび太「そうする事によって、渋~い濃淡が現れるんですよ。どうぞ、手に取ってご覧下さい。」サッ

スネママ「」マジマジ

スネママ「確かに。まるでマホガニーのテーブルのような、気品のある濃淡ざますね。」

のび太「そうなんです。本当に綺麗でしょ? ただ、その濃淡を出すための脱色の工程は、全て手作業で行われていますので、均一に染めているタイプと比べると生産量が下がります。そのため・・・・・・」

スネママ「お高い、と。」

のび太「はい。」



スネママ「なるほど。実によく分かったざます。品質とデザイン、両方の面でこちらが上手なのでございますね。」

のび太「その通りです。」

スネママ「分かったざます。では、のび太さん。こちらのカーフのお靴をいただくざます。」

のび太「ありがとうございます。」

スネママ「スネちゃまのお足は25センチざます。25センチをご用意下さいまし。」

のび太「かしこましました。」

スネママ「10足。」

のび太「10足!?」


のび太「はい。ではカードご一括にて、52万5千円ちょうど、頂戴いたしました。こちらにご署名をお願いいたします。」

スネママ「はいざます。」サラサラッ

のび太「お手数おかけいたしました。こちら、レシートとカードのお控えでございます。」スッ

スネママ「では、のび太さん。残りの8足は入荷次第、送って下さいまし。」

のび太「分かりました。どうもすいません、2足しか在庫がなくて。」

スネママ「いえいえ。それが普通ざます。こちらもそういう状況には慣れてるざますよ。」

のび太「恐れ入ります。」

のび太(骨川家パネェ!)



のび太「あと、もしスネ夫君が足を通されて、幅や甲の高さ等が合わないという事がありましたら、お手数なんですが、すぐご連絡の上、当店までご送付下さい。違うサイズの物と交換させていただきますので。ただ、手前勝手を申しますが、その際はできるだけ新品の状態で交換させていただきたく存じますので、できれば購入後すぐに一度、玄関で足を通していただいt」



スネママ「オホホホホッ。ご心配無用ざますわよ、のび太さん。スネちゃまのお靴は、幼少の頃よりワタクシが選んでまいりましたざます。今では、お靴を見ただけで、それがスネちゃまのお足の幅や甲の高さに合うかどうか、すぐに分かってしまうざます。」

のび太「そうなんですかw」

スネママ「このお靴は間違いなくスネちゃまのお足に合うざます。そうでなくては、ワタクシも購入などいたしませんことよ。」

のび太「なるほどw さすがですねw」

のび太(まぁ、僕が靴のプロなら、この人はスネ夫のプロだからなぁ。ここはプロの言う事を信じよう。)


のび太「スネ夫君は骨川グループに就職されたんですか?」

スネママ「はいざます。今は大阪支社で課長をしているざます。」

のび太「大阪ですか。」

スネママ「大阪支社長さんは夫の同期のお方でございましてね、それはそれは厳しい事で有名でございますの。スネちゃまは将来の社長さんざますからね。その方の下で、同い年の社員さん共々、ビシバシ鍛えていただいてるざます。」

のび太「そうなんですか。スネ夫君、頑張ってるんですねぇ。」

のび太(意外だなぁ。てっきり、親の七光りで幹部にでもなってるのかと思ったのに。骨川家も仕事にはシビアなんだなぁ。)



スネママ「・・・・・・ところで、のび太さん。」

のび太「はい?」

スネママ「気を悪くなさらないで下さいましね。確かのび太さんは、大学をおやめになって、その・・・・・・おニートをなさっていたとか?」

のび太「うっ!」ギクッ

のび太(恨めしや狭いご町内)

のび太「えっと、お恥ずかしながら、その通りですw」


スネママ「色々あったんざますね。でも、そこから立ち上がって、こんな立派な販売をなさっているんですから、その経験も決して無駄ではなかったんざますね。」

のび太「いやいや。あれは黒歴史ですよ。ホントに、人生を無駄使いしてしまいました。」

スネママ「いえ、のび太さん。人生に無駄なんてございませんことよ。」

のび太「えっ?」



スネママ「過ちを受け入れ、自分を許す。そうやって人は一回り大きくなるざます。だから、人生には過ちも必要ざます。その過ちとて、決して無駄ではないのざます。」

のび太「骨川さん・・・・・・」

スネママ「オホホホッ。年寄りのお節介ざます。どうぞお聞き流し下さいまし。まったく、年は取りたくないものざますね。」

スネママ「では、のび太さん。ごきげんよう。」

のび太「あっ、はい! ありがとうございました!」

スネママ「~♪」スタスタ



のび太「・・・・・・“過ちとて、決して無駄ではない”、か。」





2007年 のび太の自室

のび太「Zzz。Zzz。」

のび太「Zzz。Zzz。」

のび太「Zzz・・・・・・んっ」パチッ

のび太「・・・・・・ふあ~」ノビー

のび太「・・・・・・何時だ?」ガサゴソ

のび太「午後3時か・・・・・・」

のび太「・・・・・・いつもより早く起きちゃったな。」



のび太、現在25歳。
平手打ちを喰らったあの日以降も、何度となく両親とは衝突した。

でも、その度に互いの意見は平行線で、一向に交わることはなかった。

そして、ついに両親は何も言ってこなくなった。



大学は留年、退学。

バイトも無断欠勤が続きクビ。

もう最近では、引きこもっている事に対して何かを感じる事も、あまりなくなってきた。

それと比例して、徐々に昼と夜の活動時間も逆転し始めた。

5年目の現在では、180度反転。

朝刊が届くと同時に寝て、夕刊が届いた頃に起きる。

そんな生活を送っていた。


のび太「何か良い腹筋スレは、っと。」カチカチ

のび太「なになに?『彼氏がチ〇ポにファンタかけてる(´;ω;`)』『ファンタスティック』」

のび太「ぶはっはははは!」

のび太「おっさん絶好調だな。」



チクリ



のび太「・・・・・・絶好調、だな・・・・・・」



引きこもっている事に対して何かを感じる事も、あまりなくなってきた。

そう、あくまで“あまり”。

“まったく”ではない。

小さな焦りの気持ちは、常に心の片隅でのび太を監視していた。

ソイツは小さい癖に、1日に何度か、のび太の心の最深部へ土足で上がり込んでくる。

しかし、一度知ってしまったこの生活には、如何ともし難い魅力があった。

1日はあっとゆう間に過ぎていった。

カチャッ ブロロロロ

のび太「あれ? もう朝刊の時間か。1日早いなぁ。じゃあ、ネットニュース見てそろそろ寝ようかな。」カチカチ

寝る前にネットでニュースをチェックするのが、のび太の日課だった。

のび太「『京都府亀岡市で小学生に車が突っ込む。容疑者は無免許の未成年(18)』だって?」

のび太「うわぁ、ひどい事件だなぁ。DQN死ねよ。」

のび太「あぁ、胸糞が悪い。ちょっと芸能ニュースでも見て気を紛らせよう。」カチカチ

のび太「なになに?『あのカリスマラッパーがメジャーデビュー』?」


普段は芸能ニュースと言っても、もっぱらアイドル関連の記事しか読まない。

ネットでアイドルヲタを煽る時に役立つからだ。

全く興味のないヒップホップの記事をクリックしたのは、単なる気まぐれだった。

だが後年、のび太はこの記事を読んだのは、何かの導きだったのではないかと考えるようになる。

のび太「どれどれ。」


PC(アンダーグラウンドヒップホップシーンでカリスマ的な人気を誇るラッパー・ZAKK Da GGG(ザック ダ スリージー)さんのメジャーデビューシングル『My name is G』が本日発売となる。そのPR活動として本日の午後2時頃、渋谷のタワーレコードでZAKKさんの無料ミニライブが開かれる。)

のび太「はんっ。カリスマって。」

胡散臭い言葉だと思った。

どうせまた、リア充やスイーツ御用達の、ラブソングラッパーだろう、と。

のび太「一体どんな奴だろ? 写真は・・・・・・」スクロール

のび太「!!!?」



スクロールした画面の下からせりあがって来たカリスマラッパーの写真。

そこには、のび太のよく知る人物が写し出されていた。











のび太「・・・・・・ジャイアン。」






2012年 東京某所の靴屋 スタッフ控え室

コンコン

のび太「失礼します。」

店長「おう、野比副店長。座ってくれ。」

のび太「はい。それで、お話とは?」

店長「あ~、なんだなぁ。単刀直入に言うぞ?」

のび太「?」

店長「野比君よぉ、ここで店長やってみない?」

のび太「えっ? 僕がですか?」

店長「あぁ。つまり俺の後釜だな。知っての通り、俺は来月から横浜の新店に異動だからな。」

のび太「でも確か、店長の後任は・・・・・・」

店長「あぁ。本部としちゃぁ、銀座店の広田副店長をうちに移して、店長に昇格させたいみたいだがな。」

のび太「ですよね。」

店長「だがなぁ、俺はそれには反対なんだよ。うちにとっても、銀座店にとっても、あまりよろしくはない。それは銀座店の中条店長も同じ考えだ。」

のび太「どういう事ですか?」

店長「広田君を店長にするのは、時期尚早だと思うんだわ。別に広田君が仕事できないって意味じゃないぜ? けど、広田君もまだ若いからさ。もう少し中条さんの下で修行した方が良いと思うんだわ。中条さんも広田君をもう少し育てたいって言ってるし。」



のび太「そうなんですか。」

店長「うちはここ2、3年で売上が伸びてきてるだろ? 本部としちゃぁ、期待の新店で俺に手腕を発揮してもらいたい。けど、一方でうちの快進撃も止めたくない。そこで、繁盛店の副店長である広田君をうちに投入したいワケさ。」

のび太「えぇ。真っ当な判断かと。」

店長「違うんだなぁ。」

のび太「えっ?」

店長「俺はね、うちがこの2、3年で伸びてきてるのが俺のお陰だとする、本部のその読みが間違ってると思うワケ。」

のび太「はぁ。」



店長「もちろん俺だって努力はしてきたけどね。でも、一番の理由は野比君だと思ってる。」

のび太「えっ!?」

店長「気付いてないかも知んないけど、うちのお客さんの中には野比君のファンが多いんだ。」

のび太「いやいや、そんな事はn」

店長「ある。ホントなんだ。野比君が休みの日に、お客さんで『あのメガネの人は?』って聞いてくる人がすごく多い。」

のび太「そう・・・ですか。」

店長「『あのメガネの人に勧めてもらった靴、すごい履き心地が良いんだ。今度お礼言っといてくれ。』とかね。」

のび太「」


店長「極めつけはこないだの10足買い52万円の大量得点!」

のび太「あっ、あれはその、一種のチートみたいなモンで・・・・・・」

店長「チート? 何それ? まぁ、良いや。とりあえずさ、野比君の親切丁寧で笑顔の接客と膨大な商品知識は、確実にこの店に常連を生み出してるワケよ。」

のび太「はぁ。」

店長「まぁ、その膨大な知識を教えたのは俺だけどな!」キリッ

のび太「あはは。分かってますよ。もちろん感謝してます。」


店長「でもな、それも野比君に熱意があったからだ。俺はこういう性格だからな。新人にベッタリ張り付いて『大丈夫?分からない事はない?』なんて性に合わないのよ。分からない事があったら自分から訊きに来い、と。『見て盗め』とは言うが、盗むだけじゃ足りるワケがない。訊きに来た奴には何だって教えるが、訊きに来ない奴には一切教えない。成長ってのは会社の為じゃなく、自分の為にするモンなんだから。そうだろ?」

のび太「そうですね。」



店長「その点、野比君ときたら、入社初日から質問攻めじゃん? メモとペン持ってず~~~~~っと俺の後ろついてきてよぉ。」

のび太「ふふ。今思うと、お恥ずかしい限りですね。」

店長「他店の店長連中が野比君の事、何て呼んでるか知ってるか?」

のび太「いえ、知りません。」

店長「ゴルゴと一緒にいたら確実に殺される男。」

のび太「いやいや、バカにしてるでしょ!」



店長「ガハハハッ。まぁ、それだけ真面目で有名って事だよ。上から良く思われたいってゆう、新人にありがちな三日坊主のファイティングポーズかと思ったら、1年経っても2年経っても、相変わらず質問攻めだ。しかも、質問の内容も回を負うごとに高度になっていってる。明らかに“分かってる奴じゃないと気付かない疑問”だ。今使ってるメモ帳、何冊目?」

のび太「多分、11冊目ですね。」

店長「すげぇ量じゃん。KOKUYOから感謝状もらえるレベルだよ。それだけの努力をしてきたワケじゃん。だからあれだけの知識を披露できる。そして顧客さんを掴めるってワケだ。」

のび太「店長の教え方はすごく分かりやすいから、質問するのが楽しくて。」



店長「へへへっ。さすが俺だな。だからよぉ、そんな野比君なら、俺はこの店を安心して任せられると思ってるワケさ。正直、本部の連中は野比君の事を、中途採用だからって過小評価しすぎなんだよ。」

のび太「光栄ですけど・・・・・・自分が果たしてそこまでの人間なのか、自信が。」

店長「何言ってんだよ。自信なんざな、やり遂げた後についてくるモンなんだよ。経験を伴わない自信なんてのはただの付け上がりよ。俺はそんな奴にこの店を任せたりはしない。確かな実力があるのに傲らない野比君だから言ってんだ。」

のび太「店長・・・・・・」



店長「まぁ、最終的な人事の決定まで、まだ1週間ある。それまでに考えて、答えを聞かせてくれ。」

のび太「分かりました。でも、店長。もし僕がそのお話を受ける気になったとしても、本部の意向を変える事はできるんですか?」

店長「そこは中条さんにかかればイチコロよ。あの人は現場が大好きな人間だから、エリアマネージャーへの昇格も蹴って、かれこれ30年近く銀座店を仕切ってるんだ。その甲斐あって、銀座店は今や全店舗中1位、2位を争う、まさに金の卵を産むガチョウだよ。本部の中でも、中条さんに楯突ける人間なんざそうそういないからな。」

のび太「そうなんですか。分かりました。1週間以内に必ずお返事させていただきます。」

店長「頼むよ。おっと。そうこうしてる間にもう昼か。よし、野比君。飯行ってこい。俺は売り場にもどるわ。」スタスタ

のび太「分かりました。」








のび太「僕が店長か・・・・・・」



2007年 のび太の自室

のび太「・・・・・・ジャイアン」



ジャイアンは中学の時、交通事故に遭い、右足に軽度の後遺症を負う。

それにより、幼少時代からの夢だったプロ野球選手への道は閉ざされてしまった。

失意のドン底にいた彼を救ったのは、音楽であった。

野球と対を成す、彼のもう一つの生き甲斐。

お世辞にも上手いとは言い難い歌唱力であるが、全くその自覚のないジャイアンは小学生の頃、プロ野球選手と歌手のどちらを目指すか、本気で悩んでいた。

中学に入り、野球部に入部した事で、その悩みは解消される。



自分から捨てた、もう一つの夢。

しかしその夢は、不貞腐れる事なく自分を待ち続けていてくれた。

そして、迎えに来てくれた。

ならばもう、これしかない。



小学生の頃のジャイアンは、発声法や衣装、ステージパフォーマンス等、全てにおいて大きくロックに傾注していた。

だが、中学で彼を救った音楽はロックではなく、意外な事にヒップホップだった。

メロディを排除し、リズムを究極まで突き詰め、己のメッセージを放つ音楽。

特にジャイアンが影響を受けたのは、90年代後半の日本におけるインディーズヒップホップだった。

サンプリングによる単調なトラックに、一切飾り気のない剥き出しの言葉で紡いだリリック、そして、叩き付けるように踏むライム。

全てが未知の領域だった。

没頭した。



ルーズリーフにペンを走らせ、オリジナルのリリックを書き始めるまでに、そう長い時間はかからなかった。

中学3年生の時、文化祭でラッパーとして初舞台を踏む。

披露した3曲は全てオリジナル。

と言っても、機材を買うお金はなかったので、トラックはBUDDHA BRANDのベストアルバムに入っているインスト曲を拝借した。

学ランのボタンを全開にし、野球部の帽子を被り、祭りの夜店で買ったメッキのドッグタグを首から下げた。

思い出しても恥ずかしくなるような、手作り感満開のB―BOY。

だがそれでも、まずまずの手応えだった。

空き地で開いていたリサイタルの時とは、明らかに違う反応だった。

元々、低音の利いたハスキー声であり、肺活量も豊かなジャイアンの声質は、ラップという手法とは極めて相性が良かった。

中学卒業後は進学せず、実家の家業である雑貨屋と夜間のバイトを掛け持ちし、お金を貯めてクラブへ通った。

様々なイベントに積極的に参加し、場数を踏んだ。

当時のステージネームはMC Ωkiller(エムシー オメガキラー)。

特に意味はない。

ただ、何となく強そうな言葉と悪そうな言葉を繋げればカッコイイだろうと思っただけ。



そして17歳の春。

単身渡米。

ニューヨークで本場のヒップホップを学ぶ。

現地での初ステージにおいて、MC Ωkillerというステージネームがオーディエンスに大爆笑された事は言うまでもない。

現在のZAKK Da GGG(ザック ダ スリージー)というステージネームは、この大爆笑の直後に泣きながら決めた。

実家の家業である雑貨(ZAKKA)を文字ってZAKK、剛田・ジャイアン・ガキ大将の頭文字をそれぞれ取ってGGG。

念のため、現地のクラブで知り合ったDJに、このステージネームで大丈夫かどうか確認をとった。

そこでOKが下りたため、現在までこれを名乗っている。


それから3年後、帰国したジャイアンはアメリカから持ち帰った経験を武器に、東京のクラブというクラブを渡り歩き、その名を轟かせた。

インディーズからリリースした唯一のアルバムも上々の売れ行きだった。

そしてついに5年後、メジャーからオファーが舞い込む。



のび太「ジャイアン、ホントに歌手になったんだ。」

のび太「夢・・・・・・叶えたんだ。」



気が付くとのび太はmoraを開き、ジャイアンのデビューシングルを探していた。

のび太「ざっく、ざっく・・・・・・あったZAKK Da GGGの『My name is G』。へぇ、インディーズ時代の楽曲も配信されてるのか。まぁ、それは今度にしよう。とりあえず今日はこのメジャーデビュー曲を、っと。」カチカチ

のび太「よし、ダウンロード完了。再生。」


PC「『Check me now! Fucker! 俺はgian da ガキ大将。マジ最高なshow caseの始まりを告げるゴング鳴る。dope rap song書く。G・G・Gと連なりthree G。green leaf着火で目玉が真っ赤なmother fuckerに聴かすlike a gas burner。』」

リア充・スイーツ御用達のラブソングラッパーだろうという、のび太の当初の予想は盛大に覆された。

低音の利いたマッチョイズムに溢れたトラックの上を、スラングを交えたハードなリリックが暴れまわる。

かつてのリサイタルのように、乱暴に声を荒げる歌唱法ではない。

緩急をつけ、変幻自在のリズムを生み出す、本場のフロー。

ヒップホップに興味のないのび太の耳すら惹き付ける、本物の威厳がそこにはあった。



鳥肌が立った。

のび太「・・・・・・すごい!」

次々に飛び出してくるリリックの中でも、のび太の心に特に深く刺さったフレーズがある。

『いずれは巨匠。だがまだ序章。今は帰れんぜ、あの故郷。』

挫折から這い上がり、修行を積み、ついにメジャーと契約を結んだジャイアン。

しかしそれは始まりに過ぎない。

俺の人生はここからだ。

ヒップホップへのリスペクトと、生きる喜びがそのフレーズには詰まっていた。



気が付くと、3分半の楽曲は終了していた。

PCの前に呆然と座るのび太を、再び静寂が包む。

窓の外は明るくなり始め、朝を告げる雀達の声が響く。

いつもののび太なら、とっくに布団の中だ。

だが、今日は寝ない。

いや、今日からは寝ない。







のび太「たまにはハロワに行こうかな・・・・・・」




2012年 東京某所 のび太行きつけのダイニングバー

カランカラン

?「いらっしゃいませ。あっ、のび太さん!」

のび太「やぁ。」

?「いらっしゃい。お仕事の帰り?」

のび太「うん。」

?「お疲れさま。さっ、カウンターにどうぞ。」

のび太「ありがとう。」ゴトッ

?「今日は見ての通り、閑古鳥だわ。」

のび太「貸し切りだね。」

?「ふふふ。そうね。ご注文は?」

のび太「ジャックダニエルをロックで。」



?「あら? 珍しいわね。いつもはハイボールなのに。」

のび太「『男には飲みたい夜がある』ってね。」

?「何かの歌?」

のび太「いや、今思い付いた。」

?「ふふふ。でも、良い言葉ね。」

のび太「えへへ。」

?「はい。ジャックダニエルおまちどおさま。」コトッ

のび太「ありがとう。」カラン

?「恋の悩み?」

のび太「いや、仕事の悩み。」

?「そう。私で良ければ、いくらでも聞くわよ?」

のび太「ありがとう。」



のび太「・・・・・・ねぇ、しずかちゃん。」



しずか「なぁに?」

のび太「しずかちゃんは、このお店を先代のマスターから引き継いだんだよね?」

しずか「えぇ、そうよ。」

のび太「マスターからは何て言われたの? 『俺の後を頼む』とか?」

しずか「やぁね、のび太さん。そんな遺言みたいな言い方じゃないわよ。『誰も継ぐ人間がいないなら、このまま廃業しても良いけど、もし源さんがやってみたいなら、譲るよ?』って。」

のび太「そっかぁ。」

しずか「それが、どうしたの?」



のび太「来月、うちの店長が横浜の新店に異動になるんだ。で、代わりに僕が今の店で店長やらないかって言われた。」

しずか「すごいじゃない! 昇格するのね!」

のび太「そうなんだけど・・・・・・何か、自信なくてさ。」

しずか「そうなの?」

のび太「うん。そりゃね、僕だって昇格はしたいよ。ってゆうか、もう30だし、そろそろ店長ぐらいなってなきゃいけない頃合いだってのも分かってるんだ。だけど・・・・・・」

しずか「その店長さんに追い付ける気がしないんだ?」

のび太「・・・・・・うん。」


のび太「店長の仕事を見れば見るほど、自分が情けなくなるよ。膨大な知識に機転の利いた接客。怒鳴り込んできたクレーマーでさえ、最後には笑顔にしてしまうんだ。敵わないよ。」

しずか「分かるなぁ。私も、マスターから打診された時、のび太さんと同じ事を思ったもの。」

のび太「しずかちゃんでもそう思う事、あるんだ?」

しずか「それはあるわよぉ。ましてや当時、私はまだアルバイトの大学生だもの。お店が混んだ時、マスターみたいに手際良く調理できるかとか、酔っ払ったお客さんが暴れたらどうしようとか、色々考えたわ。」



のび太「それでも、引き継ぐ事を決めたんだ。」

しずか「えぇ。元々、いつかは自分のお店を持ちたいって思ってたから。ここでアルバイトをしようと決めたのも、ここが私の理想とするカワイイお店のイメージにピッタリだったからなの。」

のび太「確かに、何かファンタジー映画に出てくる魔法使いの家みたいな内装だもんね。」

しずか「ふふふ。マスターは大のRPG好きだったから。それとね、マスターはこのお店が大好きだったの。それは一緒に働いてた私が一番知ってるわ。だから、マスターの愛したこのお店を、私は守りたかった。」


のび太「・・・・・・マスター、癌だっけ?」

しずか「すい臓癌よ。私がこのお店を引き継いだ半年後に亡くなったわ。」

のび太「そっか・・・・・・ねぇ、もし良ければ、その話、もう少し聞かせてもらえないかな?」

しずか「・・・・・・良いわよ。でも、その前に私もちょっと飲もうかなぁ。のび太さん、おかわりはいるかしら?」

のび太「あっ、お願いします。ジャックダニエルを・・・ハイボールで。てへへ。ロックはやっぱりキツいや。」

しずか「ふふふ。じゃあ私もハイボールにしよっ。」カチャカチャ

のび太「」

のび太(しずかちゃんと二人でお酒を飲むなんて、小学生の頃の僕には到底想像がつかなかったなぁ。)


しずか「おまちどおさま。」コトッ

のび太「ありがとう。乾杯。」スッ

しずか「乾杯。」チンッ

しずか「」グビッ

しずか「ふぅ。えっとね、マスターの癌が見つかった時、私は大学4回生で、卒業まであと3ヶ月って時期だったの。」

のび太「うん。」

しずか「その時点でもう癌は結構進行していて、マスターは余命半年と宣告されたわ。」

のび太「半年・・・」


しずか「私は就活で内定がもらえていなくて、就活浪人が確定していたの。マスターは『内定が取れるまで、ずっといて良いよ。』って言ってくれてた。その矢先に、癌が見付かって。」

のび太「」

しずか「マスターは『もし源さんが店を継いでくれるんなら、卒業までの3ヶ月で全てを教え込む。継がないんなら今すぐ廃業する。そのどっちかだね。』って笑いながら言ってたわ。私がこのお店に憧れてる事も、全てお見通しだったみたい。」

のび太「そこでしずかちゃんは、前者を選んだ。」

しずか「えぇ。」



理由は3つあるわ。2つはさっき言った通り、元々お店を持ちたいと思ってた事と、マスターの宝物を守りたかった事。後の1つは・・・・・・」

のび太「」

しずか「」

のび太「」

しずか「」

のび太「・・・・・・マスターの事が、好きだったんだね。」

しずか「・・・・・・うん。」

のび太「そっか・・・・・・」

しずか「叶わぬ恋だったわ。マスターには、奥さんも息子さんもいたから。」

のび太「」


のび太「実際、引き継いでみて、どうだった?」

しずか「そりゃあ大変だったわよ。想像以上に。でも、それと同じぐらい、やり甲斐があったわ。」

のび太「夢が叶ったんだもんね。」

しずか「ところがね、やればやる程、私はまだまだ夢を叶えてないなって気付かされるの。」

のび太「どうして?」

しずか「アイデアが次々に湧いてくるのよ。『こんなソファを置いてみたい』『あんなメニューはどうかしら』『ホームページにこんな機能をつけてようかな』ってね。」

のび太「うん。」


しずか「そうゆうアイデアの1つ1つも、私は夢だと思うの。小さな夢。『お店を持つ』ってゆう大きな夢は、この小さな夢がたくさん集まってできてるんだと思うわ。」

のび太「なるほど。」

しずか「だから私はまだ、夢の途中。私の夢は、まだ終わってないの。」

のび太(それって・・・・・・)

(いつかは巨匠。だがまだ序章。今は帰れんぜ、あの故郷。)



しずか「だからね、のび太さん。店長昇格の話は、受けてみるべきだと思うわ。失敗だってするけれど、失敗せずに人生を送る方が、よほど損だもの。」

(過ちとて、決して無駄ではないのざます。)

しずか「失敗を乗り越えた時、その経験は必ず自信に繋がるから。」

(自信なんざな、やり遂げた後についてくるモンなんだよ。)

しずか「のび太さんなら、絶対大丈夫よ。」



のび太「・・・・・・うん。ありがとう。」









(君はもう大丈夫だよ、のび太君。)





2022年 東京某所の靴屋

のび太「いらっしゃいませ。」

男性客「こんにちは。」

のび太「あっ、こんにちは。先日はどうも。」

男性客「こないだアナタに選んでもらった革靴、すっごい履き心地が良いんですよ。」

のび太「ありがとうございます。」

男性客「もうね、今まで履いてきた靴は何だったんだって感じで。」

のび太「はははっ。光栄です。」

男性客「また何か良いのを選んでいただきたいんですけど。」

のび太「分かりました。先日はストレートチップでしたよね? じゃあ、今回はモンクストラップなんてどうですか?」

男性客「あ~、カッコイイですねぇ。サイズ、出していただけますか?」





のび太「~というワケで、この靴はお客様のお足と相性が良いんです。」

男性客「なるほどなぁ。分かりました。こちら、いただきます。」

のび太「ありがとうございます。」

男性客「しっかし、前回もそうですけど、アナタの説明は分かりやすくて、ホントにすごいですね。」

のび太「いえいえ、まだまだ勉強中の身ですよ。」

男性客「アナタは、ここの店長さんですか?」








のび太「はい。店長の野比のび太と申します」



Fin



のび太3.jpg



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2013年 東京某所の靴屋

トコトコトコッ

新人「すいません、野比店長!」オロオロ

のび太「ん? どうしたの?」

新人「あの、いま私が接客してるお客様なんですが・・・」ヒソヒソ

のび太「うんうん。」

新人「こちらの靴をご希望なんです。」サッ

のび太「ローファーか。」

新人「普段は25.5センチだとおっしゃるので25.5をお出ししたんですが、それだと少しサイズがキツいみたいで。でも・・・・・・」

のび太「26だとちょっと大きいんでしょ?」ニコッ


新人「えっ? あっ、はい。そうなんです。えっ・・・なんで分かったんですか?」

のび太「ローファーはそういう物だからだよ。ローファーは前が浅いでしょ・・・・・・って、“前が浅い”って分かる?」

新人「・・・すいません、分からないです。」ショボン

のび太「良いよ良いよ。仕方ない。“前が浅い”ってのは、足を覆う面積が少ないって事さ。例えばスニーカーだったら爪先から足首の付け根までスッポリ覆ってくれるけど、ローファーは甲の部分までしか覆いがないでしょ?」

新人「はい。」


のび太「って事は、足を上げた時に引っ掛かる面積が少ないワケだから、スニーカーとかに比べると脱げやすいよね?」

新人「あっ、はい。」

のび太「尚且つ、ヒモも付いてないから締め付けを調節する事もできない。だからあらかじめ甲を低くする事で足を締め付けて、それで足が靴から抜けないようにしてるんだ。」

新人「なるほど!」

のび太「だから、あのお客様は25.5でサイズは合ってるよ。ローファーはちょっとキツめで履くのが正解なんだ。」

新人「分かりました! ありがとうございます!」ダッ

のび太「あっ、ストップ!」


新人「はい?」クルッ

のび太「履き慣らしていけば革が少しずつ伸びてくるから後でもっと楽になりますってちゃんと伝えてね。それと、もしどうしても痛い時は機械を使って痛い箇所を伸ばす事もできますってね。」

新人「はいっ! 分かりました!」タタタタタッ



オキャクサマオマタセイタシマシター

コノオクツハカクカクシカジカデー



のび太「ふふふっ。」

のび太(思い出すなぁ。僕も初めてローファーを接客した時は面食らったっけ。)



野比のび太。

現在31歳。

靴屋の店長に就任し、1年の歳月が経過していた。

その夜 しずかのダイニングバー

のび太「って事があってさぁ。」

しずか「・・・。」シャカシャカシャカ

のび太「あの新人の女の子、かなり見込みがあると思うなぁ。」

しずか「・・・。」シャカシャカシャカ

のび太「ちょっと気はキツけどすっごい真面目だし、何より仕事が好きって気持ちが溢れてるんだよね。」

しずか「・・・。」シャカシャカシャカ

のび太「・・・。」

しずか「・・・。」シャカシャカシャカ

のび太「・・・しずかちゃん?」

しずか「えっ? 何か言った?」クルッ

のび太「何かって・・・・・・聞いてなかったの?」

しずか「ご、ごめんなさい! シェイカーを振ってると周りの声が聞こえなくて!」アタフタ

のび太「あっ、そっか。耳元でそんなにシャカシャカ鳴ってたら当然だね。」

しずか「本当にごめんなさい。何の話だったの?」

のび太「いや、職場の新人の女の子がすごくやる気があって将来有望だって話なんだけど。ところで、何でシェイカー振ってたの?」

しずか「あっ、これ? これはね、新作カクテルの試作品よ。」

のび太「へぇ、新作かぁ。研究熱心だね。」


しずか「それはのび太さんも一緒でしょ。そんなに靴に詳しい人が研究熱心じゃなければ何なの?」

のび太「はははっ。まぁ、仕事だからね。」

しずか「ふふふっ。のび太さん、良ければこの試作品、飲んでみてくれない?」

のび太「えっ? 良いの?」

しずか「えぇ。お客様の率直な感想を聞きたいのよ。もちろん、お代はいらないわ。」

のび太「ありがとう。喜んでいただくよ。」

しずか「助かるわ。はい、どうぞ。」トクトクトクッ

のび太「わぁ、綺麗な色だねぇ。いただきます。」グイッ

のび太「・・・。」

しずか「・・・どう?」

のび太「いや、サッパリしてて美味し・・・・・・辛っ!!!!」

しずか「ふふふっ。」

のび太「辛っ!!!! 何!!!? 何これ!!!? うぇっ辛っ!!!!」

しずか「あははははっ!」

のび太「辛ぁ!!!!」

しずか「あはははっ。はい、飲むヨーグルトどうぞ。」コトッ

のび太「!!」ガシッ

グビグビグビッ

のび太「ぷはぁ~。あ~、まだ辛い。何なのこれ?」

しずか「キッス・オブ・ファイアーっていうウォッカベースのカクテルよ。本来は甘酸っぱくて美味しいカクテルなんだけど、それは普通のウォッカじゃなくてトウガラシ浸けのウォッカを使ってみたの。」

のび太「な、何だってそんな殺人兵器みたいな物を・・・」

しずか「最近、若いお客様が増えてきたの。だから、若い人が集まって飲む時に何か盛り上がるようなメニューが欲しいなぁと思って。罰ゲームに使う時なんかにね。」

のび太「も~。だからって僕を実験台にしないでよぉ。あ~、舌痛い。」ヒリヒリ

しずか「ふふふっ。ごめんなさい。のび太さんだったら絶対に良いリアクションしてくれると思ったの。お詫びに何か一品おごるわ。何が良い?」

のび太「えっ? 良いの? ん~、じゃあタコの唐揚げで。」


しずか「分かったわ。ちょっと待っててね。」スタスタ



ウェスタンドアをくぐり、厨房へと入ってゆくしずかの背中をのび太は黙って見つめていた。



のび太「はぁ。」



このところ、のび太には一つ気掛かりな事があった。

自分としずかはいつ結婚するのかという事である。

本来の未来では学業の成績が芳しくなく、就職にあぶれ、ジャイアンの圧力によってジャイ子と強引に結婚させられ、挙げ句起業した会社を火災で失うという惨憺たる生涯を送る事となる。

その未来を変えるべく、ドラえもんはやってきた。


実際、ドラえもんのお陰で自分は変われたと思う。

それは単に学業に関する事だけではない。

もとい、学業に関してドラえもんから受けた恩恵はそんなに多くなかったと言えなくもない。

確かに暗記パンのように学力を向上させる道具を借りて難局を乗り切った事はある。

しかし、それはあくまで幼少時代の話。

高校の頃から道具に頼らなくなって以降、大学受験で合格を勝ち取るにまで至ったその学力は、明らかに自らの努力によるものだという自負がのび太にはあった。

では、ドラえもんと出会い、一体何が変わったのか。


それは心ではないかとのび太は考えていた。

ドラえもんと共に過ごし、揺るぎない友情を共有した日々。

そこから得られた安息こそが、のび太を大きく変えた原動力だったのではないだろうか。

のび太は思った。

もしかすると、ドラえもんと出会わなかった本来の僕には友達らしい友達なんていなかったんじゃないだろうか。

例えば、今ののび太にはジャイアンとの間に確固たる友情がある。

ジャイアンも同じ感情を抱いてくれているという自信もある。

だから友達なのだ。


もし今、ジャイアンからジャイ子との縁談を持ち掛けられたなら、膝を付き合わせてじっくり話し合い、丁重に断るだろう。

男女の好意を持ち得ない相手との婚姻など、自分だけでなく相手をも不幸にしてしまう。

確かにワガママで強引なところのあるジャイアンだが、友達が心の底から発する本音を無下にあしらうほど愚鈍ではない。

だが、史実上ののび太はジャイアンの圧力に屈し、伴侶を選ぶ権利すら放棄している。

Noと言えない関係。

そんな関係のどこに友情があると言うのか。


ドラえもんから学んだ心の豊かさ。

それがあったから、今の自分には友達がいる。

安らぎがある。

だから変わる事ができた。

のび太はそう思っていた。

しかし、自分にはまだまだ変えなければならない課題があった。

もとい、真っ先に変えなければならない最優先課題を、よりにもよって一番後回しにしてしまっていたらしい。

それがしずかとの関係である。



のび太「“さぁ、お前ならどうする。決して往復できない人生の洞窟。”」ボソッ

しずか「えっ? なぁに?」

のび太「あっ、いや。何でもないよ。独り言。」



徳島県出身のMC、CO-KEYの「WHAT'CHA GONNA DO?」の一節である。

ジャイアンのメジャーデビューシングルに背中を押されて以来、のび太は少しずつヒップホップを聴くようになっていった。

ある時、ジャイアンがブログでCO-KEYを絶賛しているのを目にし、彼のミニアルバムを購入した。

そこに収録されていたのが「WHAT'CHA GONNA DO?」である。

夢見る若者を応援しつつも、夢を叶えるまでの過酷さと挫折の恐怖を赤裸々に綴った同曲はのび太とお気に入りだった。

しかしここ最近、しずかとの関係に頭を悩ませていると、この曲のフックがのび太の心に重くのしかかってくるようになってきた。


『さぁ。お前ならどうする。決して往復できない人生の洞窟。幸福我で掴み取るか、降伏してなるのか敗北者。』

1週間後 東京某所の靴屋

のび太「いらっしゃ」

?「よぉ。」

のび太「!!」

?「久しぶりだな。」

のび太「す、スネ夫!!」

スネ夫「なんだよ、大袈裟だなぁ。僕の死亡説でも流れてたか?」

のび太「いや、そういうワケじゃないけど、急に来たらビックリするじゃないか!」

スネ夫「えっ? ここは靴屋だろ? いつから靴屋は完全予約制になったんだ?」

のび太「も~。そういう意味じゃないってば。その減らず口、相変わらずだね。」

スネ夫「おいおい、客に向かって“減らず口”とは何だよ? 」

のび太「客? 客と言うからには何か買ってくれるんだろうね?」

スネ夫「何だとぉ? のび太のクセに」

のび太「生意気だってか?」

スネ夫「・・・。」

のび太「・・・。」

スネ夫「・・・プッ!」

のび太「プククククッ!」

スネ夫「ハハハハハハッ!」

のび太「アハハハハハッ!」

スネ夫「ア~ハハハハハッ! はぁ~、久しぶりだな、このやり取り!」

のび太「ハハハッ! ホントだねぇ。“のび太のクセに”とか、大概ひどい言葉だよね。」

スネ夫「まったくだ。子供って残酷だよな。」

のび太「はははははっ。いや~、元気そうで何よりだよ。」

スネ夫「お陰さまで。のび太も元気そうだな。」

のび太「まぁね。あっ、そうだ。前にスネ夫のお母さんが来て下さったんだよ。」

スネ夫「あぁ。知ってるよ。あのダークブラウンのストレートチップの時だろ? 僕も母さんから聞いて顔を出したんだ。」

のび太「あっ、そうなんだ。」

スネ夫「母さん相手に靴の説明をバチッとキメたそうじゃないか?」

のび太「いやいやいや、そんな大した事は言ってないよ。訊かれた事に答えただけだから。」


スネ夫「いや、大したモンだ。うちの母さんはああ見えて実は財布のヒモが硬いんだ。自分が100%納得しなきゃ買わないタイプだからな。」

のび太「らしいね。お買い物のポリシーなんでしょ?」

スネ夫「そうだよ。その母さんを納得させるってんだから、ホントのび太のクセに」

のび太「生意気だ、ってもう良いよ!」

スネ夫「はははっ。」

のび太「今日はどうしたの? スネ夫はいま大阪に住んでるんだよね?」

スネ夫「あぁ。そうだよ。たまたま3連休がもらえたから、昨日実家に帰ってきたんだ。」


のび太「そうなんだ。」

スネ夫「で、そのついでにさ、のび太のアホ面を見がてら靴の相談もしたいと思ってね。」

のび太「はいはい、このアホ面で良ければ聞きますよ。で、なに?」

スネ夫「うん、この靴なんだけどさ。」ガサゴソッ

のび太「どれどれ? わぁっ! スウェードのドレス(ビジネス)シューズ? しかも革底! スネ夫、通だね!」

スネ夫「へへっ。前々からスウェードのドレスは一足欲しいと思ってたんだけど、なかなか気に入るのが見付からなくてね。だけど、こないだ出張に行った先でこれを見付けて、一目惚れしたんだ。」



のび太「分かるよ。シルエットも綺麗だし、何より手触りが全然違う。これは良い品だね。」

スネ夫「うん。だけど、一つ問題があって。」

のび太「問題? なに?」

スネ夫「歩いてるとさ、変な音が鳴るんだよな。」

のび太「変な音?」

スネ夫「うん。こう、キュッキュッて。」

のび太「子供のぴよぴよサンダルみたいな?」

スネ夫「そう! それ! まさにそんな感じ!」

のび太「あ~、シャンクかぁ。」

スネ夫「シャンク?」

のび太「うん。えっとねぇ・・・・・・こっち来て。」

スネ夫の靴をレジカウンターに乗せる。


のび太「ほら、見て。ドレスシューズってさ、こんな風にヒールと前部分が地面に着いてて、土踏まずの部分は浮いてるよね?」

スネ夫「そうだな。」

のび太「でも、もちろんこの浮いてる部分にも体重はかかる。って事はさ、歩いてる内にこの部分が少しずつ下に沈んでいって、しまいには靴全体がVの字にへしゃげてしまってもおかしくないと思わない?」

スネ夫「あぁ、言われてみればそうだなぁ。考えた事もなかったよ。」

のび太「じゃあ何故へしゃげないのか。それは底材の中にシャンクという芯が入ってるからなんだよ。」



スネ夫「芯?」

のび太「そう。鋼の芯。まぁ、たまにプラスチックや木を使ってるシャンクもあるみたいだけど、一般に流通してる物はほとんど鋼を使ってるね。」

のび太「そのシャンクが底材の中に仕込まれてるんだ。だいたい、ヒールから土踏まずの一番先に至るぐらいの長さなんだけどね。そのシャンクが体重の負荷に耐えてくれるから土踏まずが沈む事がなく、靴もへしゃげないで済むんだ。」

スネ夫「へぇ、なるほどぉ。」

のび太「だけどね、たまにそのシャンクが正しい位置に入ってなかったり、歩いてる内に本来の位置からズレちゃう事があるんだ。そうなるとシャンクが靴の中で擦れて、さっき言ったキュッキュッて音だったり、靴の中であちこちにぶつかってポコッポコッて音が鳴ったりするんだよ。」

スネ夫「それは何? 不良品だからか?」

のび太「まぁ、そうだね。5、6年履いてる靴だと染み込んだ汗や雨の湿気が接着剤を劣化させてシャンクがズレる事もあって、その場合は経年劣化だから有償修理になるんだけど・・・・・・この靴、ほとんど履いてないよね?」


スネ夫「まだ2回しか履いてないよ。2回目に履いた時に音が鳴り出したんだ。」

のび太「そっかぁ。じゃあ・・・うん、乱暴な言い方だけど、不良品だね。」

スネ夫「そうかぁ・・・・・・。」

のび太「とは言え、別に仕立ての悪いジャンク品って意味じゃないよ。靴は一足一足が手作りで製造されるから、どうしてもたまにミスがあるんだよ。接着剤の量が少なかったりね。靴屋の言い訳だと言われればそれまでだけど、所詮は人間のする事だから常に完璧というワケにはいかなくて。」

スネ夫「うん、それは分かるよ。そこまで難癖を付けようとは思ってないさ。けど、そういう事なら当然タダで修理してもらえるんだよな?」

のび太「そうだね。これは明らかにメーカーサイドのミスだから、買ったお店に持って行けばメーカーと連絡を取って無償で修理してくれるよ。」

スネ夫「買った店かぁ。さっきも言ったけど、その靴は出張先で衝動買いしたヤツなんだよ。その出張先ってのが福岡でさ。」

のび太「わぁ、遠いねぇ・・・・・・あれ?」

スネ夫「どうした?」


のび太「いま中敷きのロゴを見て思い出した。このブランドを生産してるメーカー、うちと取引があるよ。」

スネ夫「えっ?」

のび太「このメーカーは紳士靴と婦人靴合わせて5つブランドを展開してるんだ。うちはその中の婦人靴ブランドの1つで取引をさせてもらってるから、営業さんに話してこの紳士靴ブランドの担当の人に繋いでもらうよ。」

スネ夫「えっ!? 良いのか?」

のび太「うん。福岡のお店と連絡取って宅急便で送ったりするの、面倒でしょ? ちょっと待ってて。メーカーに電話するから。」ピポパポ


RRRRR RRRRR

のび太「お世話になります。△△シューズの野比です。山田さん、すいません実はカクカクシカジカでして。あっ、お願いできますか? 良かった、助かります。あっ、はい。では次に営業に来られた際にお渡しします。はい。はい、無理言ってすいません。ありがとうございます。失礼いたします。」ガチャッ

のび太「大丈夫だよ。無償修理してくれるって。」

スネ夫「うわぁ、ありがとう!! 助かるよ!!」


のび太「どういたしまして。それでね、シャンク不良の修理は底材ごと交換する形になるから、少し日にちがかかるんだ。スネ夫、1週間も2週間もこっちにはいないよね?」

スネ夫「そうだな。僕は明日の昼には帰るから。」

のび太「だよね。じゃあ、大阪のマンションに送るようメーカーさんに頼んどくから、この伝票に住所を書いてもらえるかな?」サッ

スネ夫「オッケー。」サラサラ

のび太「うん。じゃあ、この靴は僕が預かってメーカーさんに渡しとくね。」


スネ夫「悪いなぁ、のび太。まさか相談したその日に解決するなんて思ってもみなかった。ホントに助かるよ。」

のび太「いや、僕は別に何もしてないよ。たまたま取引のあるメーカーでラッキーだったってだけさ。」

スネ夫「そんな事ないよ。のび太に相談しなきゃシャンクの事とかも分からなかったし。ホントに大助かりだ。」

のび太「ちょ、やめてよ。スネ夫からそんな風に言われたらなんか・・・・・・気持ち悪い。」

スネ夫「なっ!? 失礼な! のび太のクセに生意気だ!」

のび太「そう、それそれ。スネ夫はやっぱり憎まれ口が似合うよ。」

ハハハハハハハッ


のび太「そう言えばお母さんから聞いたけど、すっごい怖い上司に鍛えられてるんだって?」

スネ夫「あぁ、大阪支社長だろ? もうそりゃあ厳しいよ。毎日怒られっぱなしさ。同期と『よし、今日は一回しか怒られてない! 今日は僕たち優秀だ!』とか、そんな会話をしてるレベルさ。」

のび太「大変だねぇ。何て言うか、スネ夫ってそういうスパルタ教育とは無縁な人生だったから、大丈夫かなって心配になるよ。」

スネ夫「はははっ。言ってくれるな。まぁ、確かに甘やかされて育った自覚はあるけどね。」

のび太「うん。だから・・・」

スネ夫「ありがとう。でも、大丈夫だよ。あの人は絶対に間違った怒り方はしないからさ。」

のび太「間違った怒り方?」

スネ夫「うん。例えば僕が何かミスをするだろ? その時、ミスをした僕の事がムカつくからシメてやろうみたいな気持ちで怒る人ってさ、確かに正しい事も言うかも知れないけど、それよりも相手を嫌な気分にさせたり怖がらせる事が一番の目的だから全然心に響かないんだよな。わざと汚い言葉やいやらしい言い回しをするから。」

のび太「あぁ、そうだねぇ。それに、そういう人って大体ナルシストでしょ? 『スパルタな俺、素敵』みたいなさ。」

スネ夫「うん、そうだな。それも確かにある。」

スネ夫「その点、うちの支社長は『会社と本人の為に指導する』っていうスタンスで怒るんだ。僕のミスで誰に迷惑がかかって、どんな損害を被り得るのか。そうならない為には何をするべきなのか。そういった事を一つずつ順序立てて方程式を解くみたいに怒るんだ。もちろん『バカ』だ『ボケ』だなんて汚い言葉は使わずにだよ。」

のび太「うん。」

スネ夫「そうするとさ、やっぱり心に響くんだよな。『あぁ、しまったなぁ』って自ずと反省しちゃうんだよ。」



のび太「あぁ、分かるなぁ。うちの先代店長もそんな人だったよ。」

スネ夫「のび太も良い上司に巡り会えたんだな。僕もあの人になら一生ついていけるよ。」

のび太「そっか。なら安心だね。」

スネ夫「心配してくれてありがとな。けどのび太、他人の心配してるヒマはあるのか?」

のび太「えっ?」

スネ夫「しずかちゃんだよ、しずかちゃん。どうなんだよ?」

のび太「ど、どうって・・・何が?」

スネ夫「白々しい事言うなよ。分かってるだろ?」

のび太「それは・・・その・・・・・・」


スネ夫「何の進展もないのか?」

のび太「い、いや。そんな事はないよ。」

スネ夫「おっ、何だ? 何かニュースがあるのか?」

のび太「ニュースって・・・・・・しずかちゃんが一人でお店をしてるのは知ってる?」

スネ夫「あぁ。ダイニングバーだろ? まだ行った事はないけど。」

のび太「僕はそこの常連なんだ。」

スネ夫「おぉ!」キラーンッ

のび太「・・・。」

スネ夫「それで?」ワクワク

のび太「えっ? いや、それでじゃなくて、常連・・・なんだ。」

スネ夫「・・・。」ポカーン


のび太「ちょっと? スネ夫?」

スネ夫「はぁ~~~~~~~~~~。」ゲンナリ

のび太「な、何だよ!?」

スネ夫「のび太ぁ。歳いくつ?」

のび太「さんじゅうい」

スネ夫「知ってるよ! 同い年だから! そうじゃなくて、良い歳して何を奥手な大学生みたいな事やってんだって意味だよ!」

のび太「うっ!」グサッ

スネ夫「常連だから何なんだよ!? 経営者の知り合いが常連になるなんてどこにでもある話じゃないか!」

のび太「ぐはっ!」ドスッ

スネ夫「まったくもう。」

のび太「・・・・・。」チーン


スネ夫「しずかちゃんが経営してるからには、きっとオシャレでかわいい店なんだろ?」

のび太「うん、そうだね。」

スネ夫「って事は客の年齢層も若いんじゃないのか?」

のび太「あ、そうみたい。最近若いお客さんが増えたって。」

スネ夫「じゃあより一層チンタラしてられないな。そんな店にナンパ師が飲みに来たりしてみろ? 独身の美人バーテンダーなんて恰好の標的じゃないか。」

のび太「そ、そんな奴にしずかちゃんは引っ掛ったり・・・」

スネ夫「あぁ、あぁ、そうだな! 例えが悪ぅございました!」イライラ



スネ夫「じゃあ、相手がしずかちゃんに本気で惚れてる普通の男だったらどうだ? 体目当ての口説き文句じゃなく、真っ当な交際を目的としたアプローチを受けたとしたら?」

のび太「それは・・・」タジッ

スネ夫「ただでさえしずかちゃんはカウンターの中から逃げられないんだ。口説き文句でも真面目なアプローチでも、四方八方から受け放題じゃないか。そんな中にたまたま一人、しずかちゃんの心を射止める奴がいたって不思議はないだろ?」

のび太「う~・・・・・・」タジタジ


スネ夫「はぁ~。分かった? のび太、今けっこう崖っぷちなんだぜ?」

のび太「・・・・・・ど、どうしよう。」オロオロ

スネ夫「どうしようって・・・・・・映画とか誘えば?」

のび太「やっぱりそういうベタなやり方が良いのかな?」

スネ夫「いや、“良い”と言うより、のび太にはそういうベタなやり方しかできないだろ? それとも何だ? サプライズでヘリでもチャーターして東京の夜景をプレゼントしてみるか? 父さんのコネを使えばヘリぐらい用意できるぞ?」

のび太「そ、それは・・・・・・。」


スネ夫「冗談だよ。そんなやり方がのび太の性に合わないのは知ってる。けどとにかくさ、動け。スロースターターって言葉はあるけど、のび太はまずスタートさえしてないんだからスローも何もない。まずは動く。話はそれからだ。」

のび太「・・・はい。」シュン

スネ夫「よしっ! じゃあこの話は終わり! っと、それでいま時間は・・・」チラッ

スネ夫「6時か。良い時間だな。」

のび太「どこか行くの?」

スネ夫「あぁ。今日は両親と外食だよ。6時半に店を取ってるんだ。今から行けば5分前に店に到着だな。」


のび太「そっか。楽しんできてね。」

スネ夫「あぁ。シャンクの件は本当にありがとう。今度またこっちに帰ってきた時には一杯おごるよ。」

のび太「良いよ、そんなの。スネ夫こそ、厳しくも温かいアドバイスありがとう。」

スネ夫「ふふふっ・・・・・・のび太。」

のび太「なに?」

スネ夫「僕はいずれ会社を継ぐために東京に帰ってくる。その時までに良い報告が聞ける事を祈ってるよ。」

のび太「・・・・・・う、うん。」

スネ夫「がんばれ。」

のび太「・・・うん。」

スネ夫「ドラえもんをガッカリさせない為にもな。」

のび太「分かってる。ありがとう。」


スネ夫「じゃあな。」

のび太「またね。」



踵を返し、店の出口へと歩いてゆくスネ夫。

その左手の薬指には、美しく光る指輪が通されていた。


その夜 しずかのダイニングバー

しずか「そうなの。スネ夫さんが指輪を。素敵ねぇ。婚約者かしら?」

のび太「どうだろうね? 訊かなかったから分からないけど、普通の彼女って可能性もあるよね。」

しずか「あら? 普通の彼女と婚約者の違いってなぁに?」

のび太「えっ? それはやっぱり、結婚の約束をしてるかどうかで」

しずか「約束をしてなければ普通の彼女? でも、その普通の彼女にプロポーズをすればその日から婚約者よ?」

のび太「あぁ・・・・・・そっか。そうだね・・・」


しずか「だから彼女に普通も特別もありません。彼女はみんな特別なものよ。」

のび太「失礼いたしました。」

しずか「ふふふっ。よろしい。はい、ジャックダニエルのハイボール。」コトッ

のび太「ありがとう。」カラン

のび太(なんだか今日はやり込められてばかりだなぁ)トホホ

しずか「スネ夫さんって言葉はキツいけど根は優しい人じゃない? それにオシャレさんだし。そんなスネ夫さんの奥さんになる人だから、きっと素敵な人なんでしょうねぇ。」

のび太「だろうねぇ。」


スネ夫が来店してすぐ、のび太は指輪の存在に気付いていた。

日頃の接客の中でも相手の装飾品を誉める事で会話がスムーズに成り立つケースは多い。

その為、来店した人物のアクセサリーやバッグに目を向ける事は、すでにのび太の中で職業病として定着していた。

だが、スネ夫の左薬指に指輪の存在を認めても、のび太はその事に触れなかった。

31歳の独身男性の左薬指に指輪。

それは即ち、のび太の言う“普通の彼女”との愛の象徴ではなく、婚約者とのエンゲージリングである可能性が極めて高い。

のび太にもそれは分かっていた。


だからこそ訊けなかったのだ。

スネ夫の口から婚約者の存在を聞かされれば、それはとりもなおさずスネ夫と自分の間に強烈な対比を生み、挙げ句しずかとの間にある距離の大きさまでもが浮き彫りになるような気がした。

それが恐ろしくて、指輪を視界の外へと追い出していた。

情けない。

自分の情けなさに嫌気が差す。

あんなにも必死になって自分の恋路を応援歌してくれた友人。

そんな彼の幸せを祝ぐ余裕すらないだなんて。



のび太(友人失格だなぁ。)

しずか「どうしたの? さっきから渋い顔して。」

のび太「えっ? あっ、あっ・・・み、店の在庫の事考えてたんだ!」アタフタ

しずか「在庫?」

のび太「う、うん。今季中にアレとコレを売り切っとかなきゃ、来季にアレを入れる予算が厳しくなりそうだなぁって。」アセアセ

しずか「あぁ、分かるなぁ。今ある在庫をいかに無くしていくかって、死活問題よねぇ。」

のび太「う、うん。だよねぇ。」ヒヤヒヤ

のび太(ダメだダメだ! 気持ちの暗さが表情に出てる!)


しずか「スネ夫さんが結婚かぁ。良いわねぇ。」

のび太(スネ夫にも言われたじゃないか。映画だ。しずかちゃんを映画に誘うんだ。)

しずか「そう言えば去年出席したA美ちゃんの披露宴も素敵だったわぁ。」

のび太(今テレビでどんな映画のCMしてたっけ?)

しずか「ご両親への手紙が感動的だったのよ。」

のび太(えっと・・・・・・うわぁ、思い付く限りどれもドンパチ物ばかりだなぁ)

しずか「あっ、そうだわ。結婚式と言えば・・・」

のび太(あっ、そう言えばジャイ子ちゃんのラブコメ漫画が映画化されるんだった! あれは確か来週から公開だったな!)


しずか・のび太「「ねぇ。」」







のび太「えっ?」

しずか「あっ・・・」

のび太「ご、ごめん。どうぞ。」

しずか「いえ、こっちこそごめんなさい。のび太さん話して。」

のび太「いや、僕の話なんて良いよ。別に大した内容でもないから。で、何なの?」

しずか「あ・・・あぁ、じゃあお言葉に甘えて。」

のび太「うん。」

しずか「男の人が冠婚葬祭に履く靴って、どんなのがあるの?」

のび太「えっ? 冠婚葬祭?」

しずか「えぇ。例えば女の人だったら結婚式はアニマル柄、お葬式は金具付きがNGだったりするじゃない?」

のび太「そうだね。」

しずか「男の人の靴にはそういうルールってあるのかなぁと思って。男の人の靴ってよく分からないから。」

のび太「あぁ、男はもっと簡単だよ。黒のストレートチップかプレーントゥ。この2択しかないよ。冠婚葬祭全部の場面でね。」

しずか「ストレート? プレーン?」


のび太「あぁ、ごめんごめん。分からないよね。どっちもヒモ靴なんだけど、甲の部分に横一文字の線が入ってるデザインがストレートチップで、何の装飾もないツルっとしたデザインがプレーントゥだよ。」

のび太「ストレートチップが最もフォーマルなデザインで、その次がプレーントゥなんだ。まぁ、最近はその優劣もなくなりつつあるから、好みでどっちを履いても良いと思うけどね。」

しずか「その2つしかダメなの? 例えばヒモ無しでスポッと履くタイプの物とかは?」

のび太「スリッポンはダメだよ。スリッポンはあくまでスーツでオシャレする為の靴、遊びの靴だから。」



しずか「そうなの。」

のび太「とは言え、最近はそういった靴に関するフォーマルなルールもなくなってきてるみたいだけどね。お葬式や結婚式の会場で男の人を見てるとみんな色んな靴を履いてるよ。Uチップとかスリッポンとかキルトローファーとか。中には茶色の靴を履いてる人までいたなぁ。さすがにお葬式で茶色はドン引きしたけどね。故人に失礼だよ。」

しずか「そうなのねぇ。」

のび太「うん。っていうか、いきなりそんな事訊いて、どうしたの?」

しずか「えっ? あぁ、何でもないわ。ふと気になっただけよ。」



のび太「そうなの?」

しずか「えぇ。本当に何でもないわ。ところで、のび太さんは何を言おうとしてたの?」

のび太「えっ? あ、あぁ。あのさぁ・・・」ドキドキ

しずか「???」

のび太「あの・・・・・・今度、映画行かない?」ドキドキ

しずか「映画?」

のび太「う、うん。ジャイ子ちゃん原作のラブコメ映画。来週から公開だから。」ドキドキ

しずか「あっ、そう言えばテレビでCM見たわねぇ。」

のび太「あれ、面白そうじゃない?」ドキドキ

しずか「そうね。確かに見てみたいわ。けど・・・」

のび太「???」

しずか「ごめんなさい、しばらく予定が埋まってるの。」

のび太「あっ、そうなんだ・・・。」

しずか「ごめんなさい。また予定が空いたら言うから、その時一緒に行きましょ。」

のび太「う、うん。分かった。まぁ、もしその時にジャイ子ちゃんの映画が終わってたら、また別のを見れば良いしね。」

しずか「ごめんなさい。」

のび太「良いよ良いよ・・・・・・ちなみに、その予定って」

ガチャッ

しずか「いらっしゃいませ。」

女子大生「すいません、13人いけますか?」


しずか「13名様ですか? あ~、テーブルとカウンターに別れていただければ。」

女子大生「あっ、それで全然良いです!」

ミンナー13ニンイケルッテー

のび太「忙しくなってきたね。僕はおいとまするよ。」ガタッ

しずか「ごめんなさい、お話の途中なのに。」

のび太「気にしないで。また会った時にゆっくり話そう。これ、今日のお代。これでちょうどだよね?」サッ

しずか「えぇ。」

のび太「じゃあね。」

しずか「ありがとう。おやすみなさい。」

のび太「おやすみ。」スタスタ



女子大生の団体とすれ違いながら、のび太は店を出た。

今を謳歌する若者達の楽しそうな笑い声を背中で聞く。

僕にもあんな時代が・・・

そう思ってすぐ、そんな時代がなかった事を思い出した。

彼女らほどの年代の時、のび太は引きこもりだったからだ。

取り戻せない過去への悔恨と、そこから立ち直った自身への誇らしさを同時に感じながら、のび太は家路を辿った。



のび太(映画作戦は失敗・・・ってほどでもないか。単に予定が合わなかっただけだもんな。また予定を合わせてゆっくり行けば良いや。)テクテクテク


のび太(しずかちゃんも忙しいんだな。当分先まで予定が埋まってるなんて。)テクテクテク

のび太(予定。予定かぁ。)テクテクテク



ピタッ



のび太(予定って何だろう?)



ざわめきを覚えた。

先ほどしずかと交わした会話が蘇る。



(しばらく予定が埋まってるの。)

(男の人の靴ってよく分からないから。)

(男の人が冠婚葬祭に履く靴って、どんなのがあるの?)





(結婚かぁ。良いわねぇ。)





のび太「なんで男の靴を?」



知り合いの結婚式が近く、共通の友人である男性が履いてゆく靴に悩んでいたからのび太に訊いた。

常識的に考えればこれが最も整合性のある推論だろう。

だが、不安に支配されたのび太の思考回路は悲劇作家のごとくネガティブな推論を構築してゆくのであった。

のび太(ま、まさか、結婚するとか!? 僕に訊いたのは彼氏に履かせる靴!? 予定ってのは式場の予約とか引出物の手配とかのアレコレ!?)

のび太(いやいや、それはない。だって半年前に『何か素敵な出会いはないかしら』って言ってたじゃないか。)



のび太(あっ、でも、その直後に出会いがあって彼氏ができてたとしたらどうだ? 僕は幼馴染みで常連だけど、所詮は他人だ。いちいち交際の報告をする義理なんかないと言われればそれまでじゃないか。)


のび太(現に世の中には交際3ヶ月で結婚するカップルだっている。彼氏がいるのなら、いつ結婚したっておかしくないんだ・・・・・・)

のび太(そ、そんな・・・・・・しずかちゃんが・・・結婚・・・・・・)





(のび太、今けっこう崖っぷちなんだぜ。)





この日、煩悶に明け暮れるのび太が眠りについたのは、夜空が退出の準備をし始めた午前5時頃だった。


翌日 東京某所の靴屋

・・・ちょう

・・・・んちょう

のび太「・・・・・・。」ボケー

新人「てんちょー!!!!」

のび太「うわっ!!」ビクッ



突然大声で名を呼ばれ、のび太は我に返った。

見慣れた職場とライトグレイのスーツを身に纏った自分。

そして目の前にはメモとペンを持った新人女子社員。



のび太「えっ? あっ? えっ? なに?」キーン

新人「『なに?』じゃないですよぉ。大丈夫ですか? 朝からずっとボーっとされて。今も半分意識が飛んでたんじゃないですか?」

のび太「あぁ。ご、ごめん。」



新人「お疲れなんですか?」

のび太「いや、そうじゃないよ。昨日ちょっと・・・そのぉ・・・・・・ネトゲやり出したら止まらなくてね、ついつい明け方までやっちゃって。」

のび太(悩み事で明け方まで寝れなかったなんて言えないよ。)

新人「も~。何ですか、それぇ。良い大人がゲームで寝不足なんて。仕事に響かない範囲でやって下さいよぉ。」

のび太「申し訳ない。で、何の話してたっけ?」

新人「ですからぁ、防水スプレーがなぜ必要なのかって質問にお答えいただいてたんじゃないですか。」



のび太「あっ、あぁ、そうだったね。」

新人「本当に覚えてらっしゃいます?」

のび太「うん、大丈夫。ちゃんと覚えてるよ。」

のび太(ごめん、ウソ。何にも覚えてない。)

新人「革は水を吸うと傷んでしまう。一口に傷むといっても、その症状は3つ。
①シミになる。
②ふやけて型崩れを起こす。」

新人「で、③の説明を始めた辺りから意識が飛び始めて、何を喋ってらっしゃるか分からなくなったんですけど。」

のび太「あぁ、うん。そうだね。ちょうどそこから再開しようと思ってたんだ。」

新人(ウソばっかり。)

のび太「えっとね、3つ目は“乾燥してヒビ割れる”だよ。」

新人「えっ? 乾燥ですか? 水を吸ってるのに?」

のび太「吸った瞬間に乾燥するワケじゃないよ。吸い込んだ水が蒸発する時に、革の潤い成分も一緒に蒸発してしまうんだ。ほら、僕ら人間もお風呂上がりって肌が乾くでしょ?」

新人「あっ、はい。」

のび太「あれも同じ事だよ。肌の潤い成分でナントカ酸とかってあるでしょ? 僕は美容方面の事はサッバリ分からないけど、ああいうのが水分と一緒に肌から蒸発していくんだよ。」

新人「なるほど。」


のび太「で、僕たちは生きてるから新陳代謝でまた肌に潤いが戻ってくる。けど、牛革はとどのつまり死んだ牛の皮膚だから新陳代謝は?」

新人「しません。」

のび太「正解。だから潤いが抜けるそもそもの原因を取り除いてあげなきゃいけない。その為に防水スプレーを振るんだ。」

新人「なるほどぉ。それって、毎日必要なんですか?」

のび太「いや、毎日じゃなくて良いよ。2、3滴水が付いたぐらいじゃどうって事はないからね。雨の日とか雪が積もってる日とか、そういう靴がズブ濡れになりそうな日に使うんだ。1回振れば24時間効果が続くよ。」

新人「はい。」メモメモ



のび太「お客様の中には防水スプレーを使う意味とか、革が水を含んだ時にどんなデメリットが生じるのかとか、そういう事を知らない人が結構多いんだ。だから、靴のお会計をする時に『防水スプレーはお持ちですか?』って声をかけて、今みたいな説明をすれば一緒に買ってもらえる事もあるよ。防水スプレーは1本800円だからね。800円の単価アップは大きいよ。」

新人「そうですね。積極的にお声がけしてみます!」

のび太「うん。その意気やよし・・・・・・っと、ふぁ~」アクビ~

新人「ちょっと店長。大丈夫ですか?」



のび太「あはっ。大丈夫大丈夫。でも、眠くて死にそうだよ。」ショボショボ



その後も睡魔は一切攻撃の手を緩める事はなかった。

ただでさえしずかの事で頭がいっぱいののび太にとって、この追撃はひとたまりもない。

当然、仕事にも支障をきたし、書類を書き間違える、メーカーへの発注連絡を忘れる、ディスプレイ用の鉢植えを倒すなど、散々な1日を過ごす事となった。



その夜 閉店後の東京某所の靴屋

ガラガラガラッ

ガシャンッ

のび太「よし。シャッター施錠OK。帰ろうか。お疲れさま。」

新人「お疲れさまでした。店長、今日はゲームしないで早く寝て下さいよ。」

のび太「はいはい、了解です。今日は色々と面倒起こしてごめんね。それじゃ。」

新人「はい。失礼します。」スタスタ

のび太の帰路と反対の方向へ歩いて行く新人の背中をしばし見届けると、のび太はバッグから音楽プレイヤーを取り出した。

イヤホンを装着して再生ボタンを押す。


シャッフル再生に設定されたプレイヤーが選んだ曲はShakka ZombiEの『空を取り戻した日』だった。

良い選曲だ。

気だるい頭と体にOSUMIの柔らかいフロウが染み渡る。

のび太は踵を返して歩き出した。

帰宅の道中に頭をよぎるのは、やはりしずかの事だ。



のび太(しずかちゃん、本当に彼氏できたのかな?)

のび太(それならせめて報告ぐらいしてくれても良いのに。)

のび太(って、別にまだ彼氏ができたと決まったワケじゃないか。)

のび太(いや、じゃあ昨日の結婚式の靴の話は何だったんだ?)

のび太(って、もう! 昨日からずっとこの堂々巡りじゃないか!)


昨夜もこの思考の迷路を死ぬ程さ迷った。

この調子では今夜もまた同じ事が起きると思われる。

今の疲れ果てた体なら昨日よりは早く眠れるだろう。

ただ、心地よい目覚めは期待できない。

やれやれ、明日は早番なのに。

そう思った次の瞬間、一滴の雫がのび太の額を叩いた。



のび太「えっ?」

ポツ ポツポツ サァァァァァァァァ

のび太(そっか。今日は夜から雨だっけ。折り畳み傘は、っと・・・)ガサゴソ

のび太(あちゃ~。こんな時に限って入ってない。)

今朝の天気予報ではこれから夜中にかけて断続的に雨が続くと報じられていた。

一瞬、店に引き返して客の忘れていったビニール傘を拝借しようかと考えた。

だが、シャッターを開けて警備会社のセキュリティーを解除し、暗闇の店内を手探りで事務所まで進む、そしてその逆の手順を踏むといった手間を考えると気が萎えてしまった。

それよりすぐ目の前の交差点を左に曲がって全力で走れば駅まで1分で着く。

そこから電車に揺られて4つ目の駅で降りればのび太のアパートはすぐ目の前だ。


駅近の物件を選んだ自身の判断力に感謝しながらのび太は駆け出した。

しかし交差点にたどり着いた瞬間、もう一つの選択肢を思い付いてしまった。

交差点を直進して走れば3分でしずかの店にたどり着ける。



のび太「・・・。」ピタッ



思わず足が止まる。

左折か、直進か。

急に雨に降られたから傘を借りに来たが、せっかくなので一杯飲んでいく。

そんな言い訳が浮かんだ。

理にかなっていると思った。

そこから昨日の言葉の真意を聞き出す事だってできる。

その結果、本当に単なる好奇心からくる無邪気な質問だったと分かれば万々歳だ。

だが、もし単なる好奇心ではなかったら?

本当にのび太が予想している最悪のシナリオだったら?

そう思うと、足がすくむ。

真実を知るのが怖い。

のび太「・・・・・・。」

いたずらに過ぎ去る時間と共に勢いを増す雨は、のび太のライトグレイのスーツに次々と黒点を刻み付けてゆく。

行くか、行かないか。

直進か、左折か。








(まずは動く。話はそれからだ。)







のび太「・・・。」



のび太は駆け出した。



歩行者信号が点滅し始めた交差点を、脇目も振らずに突っ切る。

下らない言い訳なんかたくさんだ。

根拠のない妄想に取り憑かれてるヒマがあったら真実を知ろう。

しずかに会いに行こう。

職場から自宅までの道すがらに飲み屋は数え切れないほどに点在する。

その中からあの店を選んだのは何故か。

それはしずかがいるからだ。

かっこつけて飲めもしないウィスキーを飲むようになったのは何故か。

それはしずかがいるからだ。

しずかに会いたいからだ。

理由なんてそれだけで十分じゃないか。


最悪の答えが待っていたって、その時はその時だ。

僕は今、しずかちゃんに会いたい。

いよいよ勢いを増し、本降りとなった雨の中をのび太は走った。

しずかの店まであと約300メートル。

200

100

50

しかしここで、のび太は違和感に気付いた。









のび太(灯りが・・・着いてない?)







ついにのび太は店の前までたどり着いた。

肩で息をしながら呆然と立ちすくむのび太を、灯りの消えた無機質な建物が見下ろす。



のび太(定休日? いや、違う。定休日は明後日だ。じゃあ臨時休業? でも・・・・・・)

しずかはいつも、臨時休業を設ける時には最低でも2日前には店のドアにその旨を記した張り紙を掲示する。

しかし今、店のドアには何の張り紙もされていない。

ただドアノブにぶら下げられたCLOSEのプレートが力なく揺れているだけである。

窓から店内を覗き込むが、暗闇の立ち込める店内に人の気配はない。



のび太はしばし店の前に佇んでいた。

だがやがて、雨によって体温を奪われた体が身震いを覚え始めた頃、冷えきった両手をポケットに差し込んで静かに歩き始めた。

すれ違う人々が足早に家路を急ぐ中、傘も差さずにゆっくりと。

気が付くと音楽プレイヤーからはKM-MARKITの『Rainy Day』が流れ始めていた。



のび太(雨の日に『Rainy Day』なんて、できすぎだよ。しかもこの曲って・・・・・・)



別れの歌じゃないか。



『I'm still loving you,Baby. でも・・・。あの日には帰れない。』


2日後の休日 のび太のアパート

のび太(昨日もしずかちゃん、休みだったなぁ。)



今日は非番である。

あの雨の夜から2日が経過した。

のび太は昨日の夜も仕事終わりにしずかの店を訪れてみた。

しかし相変わらず店内に灯りはなく、昨夜同様ドアノブにぶら下げられたCLOSEの文字に淡い期待を打ち砕かれる結果となる。

ただ、どうやら一昨日の夜から昨日の夜までの間に、しずかは一度店に立ち寄ったらしい。

一昨日の夜にはなかった張り紙がドアに掲示されていた。


『誠に勝手ながら、しばらく休業させていただきます。申し訳ございません。 店主』



張り紙にはそう記されていた。

A4のプリンター用紙に黒のサインペンで手書きしただけの簡素な物だった。

幼少の頃から変わらない女の子らしい丸文字。

だが、そのかわいらしい文字を見たからといって心が和む事はない。

のび太は知っていた。

しずかはいつも張り紙をする時は色鉛筆を使う。


ターコイズ調のフレームや様々なイラストを全て色鉛筆で手書きし、その中央にお知らせを書き込むといった、見た目にも美しいカラフルな張り紙を作成するのである。

昨日のような殺風景な張り紙は見た事がない。

加えて、休業の理由や営業再開の予定も記されていない、見た目同様のシンプルな文面。

突発的かつ重大なアクシデントに見舞われ、趣向を凝らした張り紙を作成するヒマがなかったのではないか?

のび太にはそう思えてならなかった。

不安に思い、帰りの電車の中でメールを送った。


To 源静香
sub 張り紙見ました
何かあったの? 大丈夫?



“僕で良ければ力になる”とは書かなかった。

心配する事と、安全圏からトラブルに関わりたがる野次馬根性の違いぐらい分かっているつもりだ。

だが一夜明け、午後4時を回った現在も返信はない。

気が気でなかった。

一体何があったのか。

のび太の脳裏からしずかの結婚という疑念が完全に消失したワケではない。

だが3日前に比べると、脳裏におけるその占有面積は大幅に縮小していた。



それよりも、何か本当に良くない事が起こったのではないかという心配の方が遥かに大きい。

明らかにしずかの筆跡と分かる張り紙があった事から、犯罪に巻き込まれるなどの危険が及んでいるという心配はとりあえずなさそうだ。

となると、何か心が大きく傷付くような出来事でもあったのだろうか。

電話をしてみようかとも考えた。

だがそれではメールの返信を強要するかのようなニュアンスを含み兼ねないと思い、やめた。



もししずかが本当に何かに傷付いて、メールを返す気力もないほどに塞ぎ込んでいたとしたら、電話は単なる追い討ちにしかならない。

結局のところ、僕は何の役にも立てないんだ。

ドラえもんのおかげで変わる事ができたと付け上がっていたが、それは単に本来の未来を回避しただけじゃないのか?

理想の未来へと向かっていたワケではないんじゃないのか?

しずかちゃんと僕は、結ばれる事はないんじゃないのか?

西日に溶かされてゆく休日を見詰めながら、のび太はそんな事を思っていた。



のび太「・・・・・・。」









のび太「・・・・・・ドラえもん。」ポツリ








のび太「・・・・・・何か道具出してよ。」



(のび太くん。君はすぐそうやって道具に頼ろうとするんだから。)









のび太「・・・・・・良いじゃないか、減るもんじゃ無し。ケチ。」








(け、ケチとは何だ!)


のび太「・・・・・・ケチだからケチって言ったんだ。」









(分からず屋!)









のび太「・・・・・・タヌキ。」



(言ったな、このぉ!)









のび太「・・・・・・。」









のび太「・・・・・・。」






のび太「・・・・・・。」



のび太「・・・・・・頼むよ。ドラえもん。」
































(・・・・・・もう。今回が最後だからね。)









ピリリリリリッ ピリリリリリッ



のび太「!!!!」ビクッ

着信音が静寂を突き破った。

弾かれたようにケータイに手を伸ばすのび太。

今の音はメール着信だ。

恐る恐る受信ボックスを開き、送り主の名を確認する。



源静香



しずかからの返信だった。

当然、今すぐメールの中身を見たいと思ったが、それと同時に見たくないと望む自分もいた。

見るのが怖い、と。

破裂しそうな程に高鳴る鼓動を感じながら、のび太は深呼吸をした。

そして、メールを開封した。



From 源静香
To Re:張り紙見ました

心配かけてごめんなさい。私は大丈夫です。明日、のび太さんのお店にお邪魔しても良いかしら?



のび太「ぼ、僕の店に?」


翌日 東京某所の靴屋

のび太「え、えっと新人さん!」ソワソワ

新人「はいっ。」

のび太「そのパンプス、店頭の棚に移動しようか。」ソワソワ

新人「えっ? 良いですけど、これ昨日店頭の棚から移動したばかりですよ?」

のび太「い、いやぁ、やっぱりさぁ、季節感って大事だと思うんだ。今うちにある商品の中で一番季節感があるパンプスって、やっぱりそれだと思うんだよね。」ソワソワ

新人「はぁ・・・」

のび太「ほら、店頭ってお店の顔だしね。やっぱり店頭こそ一番オシャレにするべきだと思ったんだ。」ソワソワ


新人「わ、分かりました。移動します。じゃあ、店頭のスニーカーと入れ替えるって事で良いですよね?」

のび太「うん。それで良いよ。あっ、それからバイト君。」ソワソワ

バイト「はい?」

のび太「倉庫から脚立持ってきて。このスポットライトの向きが微妙にズレてる。」ソワソワ

バイト「えっ? あぁ、はい。」

バイト(そんなにズレてるかなぁ? 靴にバッチリ光当たってるし問題ないと思うけど・・・)

のび太「後は・・・あれ? この植木、ちゃんと水あげた?」ソワソワ

バイト「はい。さっきあげましたよ。」


のび太「ん~、ちょっと葉っぱにハリがないなぁ。もうちょっとあげてみようか。」ソワソワ

新人「だ、ダメですよ! 根腐れしちゃいますから!」

のび太「えっ? そうなの? でも・・・」ソワソワ

新人「『でも』じゃないですよ! ホラ、土が十分濡れてるじゃないですか! この子はこれからちょっとずつ水を飲むんです! これ以上あげたら枯れちゃいますよ!」

のび太「あっ、そ、そうなの? うん、分かった。」ソワソワ

新人「もう!『植物だって生きてるんだから大切にしよう』っておっしゃったの、店長じゃないですか!」


のび太「ご、ごめんごめん・・・・・・あれ?」ソワソワ

新人「今度は何ですか!?」

のび太「この鏡、よく見たら指紋が付いてるなぁ。多分さっきの親子連れだな。子供さんがベタベタ触ってたから。ごめん、ちょっと乾拭き用の雑巾取って。」ソワソワ

バイト「どうぞ。」サッ

のび太「ありがとう。こういう些細な汚れに気付くか気付かないかでショップの命運は別れるんだよねぇ。」ソワソワ フキフキ

バイト・新人「「・・・・・・」」


のび太は朝から落ち着かない1日を過ごしていた。

普段から店長として店内の演出や清掃には最大限の注意を払っているつもりだが、今日はその何倍も気合いが入っている。

ほんの微細な汚れ、微妙なズレ。

その一つ一つが目につき、気になって仕方がなかった。

理由は言うまでもなく、しずかが来店するからである。

今までにも何度かしずかが来店した事はあるが、それらは当然ながら全てアポ無しだった。

しずかの接客に就く度、のび太は店内の様々なアラが目につき歯痒い思いをしてきた。



来るって分かってたらもっと念入りに掃除したのに。

だが今日は来る事が分かっている。

その為、いつしずかが来ても良いように、のび太は朝からフル回転で店内美化に従事していた。



のび太「ふぅ。こんなところかな。後は・・・」

新人「いらっしゃいませ。」

バイト「いらっしゃいませ。」

のび太「!!」クルッ



弾かれたように振り返るのび太。

その視線の先にはしずかが立っていた。

わずか2日間会わなかっただけだが、まるで数十年ぶりの再会であるかのような感覚がのび太を襲った。

しずか「こんにちは。」


のび太「し、しずかちゃん! いらっしゃい・・・あれ?」

のび太は気が付いた。

しずかの後ろに一人、初老の男性が立っている。

のび太は一見してその人物がしずかの連れ合いだと分かった。

何故ならその人物とは、



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?「のび太くん。久しぶりだね。」

のび太「おじさん! ご無沙汰しております!」



しずかの父、源義雄氏だったからである。



義雄「覚えていてくれたのかい。嬉しいなぁ。」

のび太「もちろんですよ! 子供の頃、あんなに何度もご自宅にお邪魔させてもらったんですから! 忘れませんよ!」


義雄「はははっ。そうだね。のび太くんは本当にしずかと仲良くしてくれていたね。」

のび太「僕の方こそ、しずかさんには本当に良くしてもらって・・・・・・ところで、今日はどうされたんですか?」

義雄「あぁ。今日はね、僕の礼服用の靴を選んでもらいたくて来たんだ。」

のび太「礼服用ですか。」

義雄「あぁ。」

のび太(礼服用って・・・・・・まさか・・・)

のび太「どなたかご結婚なさるんですか?」

義雄「いや。そうじゃなくてね・・・・・・。」

のび太「???」


義雄「実はね・・・・・・僕の父が、もうあまり長くないみたいなんだ。」

のび太「えっ?」

しずか「のび太さん。私のお店の事で心配かけてごめんなさい。実は一昨日、祖父が危篤になったの。」

のび太「あっ、そ、そう・・・なんだ・・・ 」

しずか「ここ最近、ずっと体調が悪かったのよ。自宅にいても、ほとんどベッドから起きない日が続いて・・・」



しずかの店の臨時休業。

急ごしらえの張り紙。

丸一日返事のなかったメール。

礼服用の紳士靴。

当面の予定が埋まっているというしずかの発言。

のび太の中で、全てのピースが合致した。

体調の悪化した祖父との別れがいつ訪れるか分からない。

だから当面の予定が埋まっていると言ったのだ。

危篤ともなれば尚更だろう。

そんな状況下にあっては、凝ったな張り紙を用意する事はおろか、メールの返事を打つ暇さえあったハズはない。

そして、来るべき別れの日に備えて、礼服用の靴を新調しようとしている父親の為に、のび太に件の質問をぶつけたのだ。



義雄「前々から父は『こんな先のない命の為に無駄なお金は使わせられない。自分に何かあっても延命治療はするな。』と口癖のように言っていてね。だから今回、危篤となってからも言い付け通り、延命治療はしていないんだ。おそらく、もってあと2日だろう。」

のび太「2日・・・ですか・・・・・・」


義雄「厳しい父でね、子供の頃はそれはそれは怖かったものさ。だけど、一人の人間として尊敬できる人でもあった。」

義雄「そんな父がいよいよ旅立つからには、僕もできるだけ最良の形で見送りたいと思っているんだ。その為にはまず、僕自身の身だしなみを整えないとね。」

のび太「だから、しずかさんに・・・」

義雄「あぁ。お恥ずかしながら、冠婚葬祭の靴のマナーの事には全く無知でね。黒の革靴なら何でも良いと思っていたんだ。だけど、ふと気になってね。のび太くんに訊いてくれるよう、しずかに頼んだんだよ。」


しずか「黙っててごめんなさい。でも、祖父の事を話したら、きっとのび太さんは気を遣うと思ったの。」



肉親との別れがいつ訪れるか分からない。

そんな状況の中、笑顔を絶やさず働くというのは、一体どんな気持ちだろう。

前々から体調が悪かったというからには、多少の心づもりはできていた事とは思う。

だがそれにしたって、決して明るい気分でいられたハズはない。

それでもしずかは笑顔を絶やさなかった。

のび太の事を気遣い、悲しみの片鱗すら覗かせなかった。


それに比べて、自分のなんと小さい事か。

一瞬でもしずかの結婚を懸念し、不安にに取り憑かれていた自分が情けなくて仕方なかった。

本当に結婚であったなら、それはしずかにとっては喜ばしき事である。

それを自分の目線からのみ捉え、さも悲劇的な出来事であるかのように受け止めていた。

実際、しずかを襲っていた事態はそれとは全くの真逆の内容であったというのに。

何なんだ、僕は。

利己的にも程がある。



のび太「ごめんね・・・・・・何も気付いてあげられなくて・・・一番辛いのはしずかちゃんなのに、こんな僕の為に気まで遣わせて・・・」

しずか「気にしないで。私はただ、のび太さんには笑顔でいて欲しいの。のび太さんがお店に来てくれたら、すっごく嬉しいし楽しいの。だから暗い話題はあえて出さなかったのよ。」


返す言葉もなかった。

ますます自分が嫌になる。

だが、いつまでも自己嫌悪にばかり浸ってはいられない。

二人は靴を必要としている。

大切な人を見送る為の靴を。

そしてその為に、のび太の店を選んだ。

のび太が数ある飲み屋の中からしずかの店を選んだように、二人もまた、数ある靴屋の中からのび太の店を選んだ。

選んでくれた。

ならば、なすべき事は一つだ。



義雄「のび太くん。靴を、選んでもらえるかい?」

のび太「・・・・・・はい。お任せ下さい。」

のび太は義雄の手をチラリと見やると、踵を返して倉庫へと駆け込んだ。

義雄はスポーツブランドのウォーキングシューズを履いていた。

ソールが分厚く、ライニング(内張り)にも潤沢にクッションがあしらわれているウォーキングシューズは、全体的にゴツゴツしたシルエットになりやすく、外観からはどうしても足の正確なサイズを推測しかねる。

そんな時は手を見るのだ。

人の手の大きさは足の大きさと比例している。

例えば手が大きい人は足も大きく、手の甲が高ければ足の甲も高い。

入社初日に先代店長から教わった事だ。



あの手を見る限り、義雄の足のサイズは24.5センチだ。

加えて幅が細く、男性としては比較的スマートで華奢な足つきをしていると思われる。

その足の形に対応でき、その上で最高の身だしなみ、すなわちフォーマルを極めたデザインの靴。

のび太には既に答えが出ていた。

自店のドレスシューズのラインナップは百数十。

そして、それらにそれぞれ23.5~27までのサイズストックがある。

故に、倉庫に眠る在庫の総数は千をゆうに超える。

だが迷う事などあり得ない。

その一つ一つの特徴や履き心地は全て完璧に把握している。


のび太は脇目も振らず、その一足を棚から抜き取った。

両手でしっかりと抱え、義雄の元へと駆け戻る。



のび太「おじさん。お待たせしました。」

義雄「これは?」

のび太「黒のストレートチップです。しずかさんからお聞き及びかと思いますが、昨今、冠婚葬祭における靴の制約はほぼ無くなりつつあります。黒のドレスシューズであれば何でも良いというおじさんの解釈は、決して間違ってはいません。」

のび太「ですが、おじさんは大切なお父様をお見送りなさる上で最もふさわしいお靴を求めておいでです。となれば、やはりストレートチップ以外はないと判断いたしました。」

義雄「ありがとう。僕もしずかから話を聞いて、是非ともそのデザインの靴が欲しいと思っていたんだ。」



のび太「本当ですか? なら、ご期待に沿えて何よりです。」

のび太「ですが、一口にストレートチップと言っても、実はその中にも更にフォーマルの序列があるんです。」

義雄「そうなのかい?」

のび太「えぇ。その基準となるのがソールとライニングの色です。」

義雄「ライニング?」

のび太「あっ、失礼しました。靴の内張りの事です。ドレスシューズのライニングの色は通常、色落ちによって靴下が汚れないようベージュが使用される事が多いんですが、黒いライニングを使用したドレスシューズもあります。」


のび太「この黒いライニングの方がベージュよりもフォーマルの度合いが高いんです。そして、ソールも同じく黒い物の方がよりフォーマルとなります。ですので、黒のストレートチップでライニングも黒、ソールも黒。そういったお靴こそ、本当に完璧なフォーマルシューズなんです。」

義雄「なるほど。」

のび太「当店のラインナップの中で、いま申し上げた条件に該当する靴は3つあるんですが、その中でも特にこちらのお靴は幅が狭く、また甲も低い構造となってますので、おじさんの細いお足をしっかり固定するには最適だと思いました。どうぞ、ご試着下さい。」



義雄「ありがとう。しずかから、のび太くんは人の手を見ただけで足のサイズや形が分かると聞いていたが、本当だったんだね。」スポッ スポッ

のび太「恐縮です。毎日意識して見る癖をつけてると、何となく分かるようになってくるんですよ。履き心地はいかがですか?」

義雄「・・・・・・うん。良いね。靴全体が足に寄り添って来る感じだ。少しキツい気がしないでもないけど、革靴は後で伸びるよね?」



のび太「よくご存知で。おっしゃる通り、革は持ち主の足の形に合わせて伸びます。伸びるという事はサイズが大きくなるという事です。ですので、最初は少しキツいぐらいでないといけません。痛くない程度にほどよく締まっている感触が理想的です。そのお靴なら、まさにそのような感触ではないかと思うんですが。」

義雄「あぁ。まさにその通りだよ。歩いてみても・・・」スタスタ

義雄「うん。靴と足が一緒になって動いてくれる。これは良いよ。僕が今まで履いてきたどの革靴より履き心地が良いかも知れない。」



のび太「光栄です。お足の形としっかり合っているお靴は歩きやすいだけでなく、無駄なシワも入りませんので見た目もすごくキレイなまま履いていただけます。フォーマルの要素を全て押さえていて、尚且つ見た目にも美しい。これが僕のお勧めできる、最高のお靴です。」



そう言ってのび太は言葉を切った。

もうこれ以上何か付け足しても蛇足になる。

先ほどの倉庫へ駆け込むまでの数秒間で、頭の中に自店のドレスシューズの全ラインナップを思い浮かべ、取捨選択と吟味を重ねた結果、この靴を選んだ。


今までに学んだ知識、経験、そして二人の期待に応えたいという想い。

全てを詰め込んだ末の選択だ。

この靴以外にありえない。

あとは、二人の判断に委ねよう。



義雄「しずか。どうだね?」

しずか「素敵だと思うわ。サイズが合っていれば見映えも良いっていう、のび太さんの言葉の意味がよく分かるもの。それに・・・」

義雄「それに?」

しずか「のび太さんが選んでくれた靴だもの。何の心配もいらないわ。」

のび太「しずかちゃん・・・」

義雄「そうだね。同感だ。のび太くんは本当に良い物を選んでくれた。のび太くん、この靴をいただくよ。」

のび太「ありがとうございます。では、22680円です。」



のび太「はい。では、320円のお返しです。」チャリン

のび太「すみません、おじさん。今、レジの調子が悪くてレシートが出せないんです。この手書きの領収証をレシートの代わりとさせて下さい。」

義雄「ありがとう。それで構わないよ。」

のび太「恐れ入ります。」

義雄「のび太くん、ありがとう。本当に良い靴を選んでくれたね。」

のび太「いえ、それは靴屋として当然の事ですから。」

義雄「これで胸を張って父を見送る事ができる。葬儀の後も、一生大切にさせてもらうよ。」

のび太「光栄です・・・・・・あの・・・」


義雄「ん?」

のび太「その・・・お悔やみ申し上げます・・・って、いま言うのは失礼ですよね。まだ亡くなってないのに・・・えっと・・・」

義雄「ふふふっ。ありがとう。その気持ちだけでも十分だよ。」

のび太「・・・・・・すいません。勉強不足で・・・」

義雄「やはり君は、他人を思いやる心をもった素晴らしい人物のようだね。」

のび太「いやいやいや、そんな! 滅相もないですよ! 僕なんて・・・」

しずか「のび太さん。」

のび太「なに?」

しずか「本当にありがとう。それとね・・・」

のび太「???」

しずか「さっきののび太さん、すっごくかっこよかったわ。」

のび太「!!!?」ドキッ

義雄「そうだね。やはり、プロが仕事をしている姿はかっこいい物だ。それに、営利目的ではなく、一個人として僕の為に真剣に選んでくれた真心が伝わってきた。それが何よりも嬉しかったよ。」

のび太「・・・・・・。」

義雄「さて、しずか。そろそろ行こうか。」

しずか「そうね。」

のび太「あっ、お出口までご一緒します。」

義雄「いや、ここで良いよ。のび太くん、重ね重ね、今日はありがとう。」


のび太「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」

しずか「またお店を再開したら連絡するわね。」

のび太「うん。待ってるよ。」

しずか「それじゃ。」

義雄「失礼するよ。」

のび太「ありがとうございました。」ペコッ



二人の姿が見えなくなるまでのび太は見送った。



のび太「ふぅ~。」




充足感に満ちた深い溜め息をつく。







上手くいった。

気付かれずに済んだ。


先ほどの接客の中で、のび太は一つウソをつき、そして一つ隠し事をしていた。

レジは不調などきたしておらず、レシートは普通に出てくる。

そして金額。

あの靴は確かに22680円である。

ただし、それは正規価格ではない。

のび太の社員割引を使った場合の価格だ。

あの靴の正規価格は37800円なのである。



あの靴は皮の腐敗や乾燥を防ぐ為のなめしと呼ばれる工程において、広く一般に流通している塩基性硫酸クロムを用いたクロムなめしではなく、植物から抽出したタンニンによるタンニンなめしを採用している。

そうする事によって型崩れしにくい頑丈さと、深みのある風合いが得られるのである。

しかし、タンニンは皮に浸透させづらい為、その工程には長い作業時間と高い技術が求められる。

当然、価格はクロムなめしの製品よりも高い。

だが、その事は二人には伏せておいた。



今後、葬儀の準備で何かと出費が嵩むであろう源家から、そんな金額を貰い受ける気にはなれなかった。

何より、この接客は利益目的のそれではない。

二人に要らぬ気を遣わせないよう、倉庫から持って来る際に箱の値札シールも剥がしておいた。

だが、そこまでしておきながらレジを打ったのでは、本来の価格が表示されてしまう。

だからレジの調子が悪いなどとウソをついたのである。

のび太は思った。

我ながら甘いな。

商売人の風上にも置けない甘っちょろさである。

だがそれで良い。


いつだったか、小学校の頃に担任の先生(せんじょう)先生に向かって『テストをして誰かが最下位の憂き目に遭うのなら、その役目は自分が引き受ける。』といった旨の発言をした事があった。

あの時は例によって自身の怠惰な学習態度を咎められた際の咄嗟の言い訳だったが、今になって振り返ってみると、あながち間違ってはいないように思える。

自動化、マニュアル化が高収益への近道とされている昨今にあって、靴屋はわざわざ対面接客で物を売らなければいけない難儀な職種だ。

人間が行う仕事だ。



ならば、そこに人情を差し挟んだって良いじゃないか。

他人の喜びを自身の喜びとする、そんな暑苦しい店が一件ぐらいあったって良いじゃないか。

引き込もっていた当時ののび太が、今のこんな自分を見たらどう思うだろう。

きっと『社畜だ』『オワコンだ』と嘲笑するに決まっていると思った。

いくらでも笑えば良い。

僕は未来の君だ。

君は遅かれ早かれ僕になるんだ。

そして君は知る事になる。

自分は所詮、こうやって誰かを喜ばせる事が大好きな面倒くさい人間なのだと。

だからこの仕事が合っている。


それは決してオワコンなんかじゃない。

何故ならその心を、優しさを教えてくれたのはドラえもんなのだから。

未来の高性能ロボットが教えてくれた事を、過去の世界の自分がどうしてオワコンだなんて言えよう。

ドラえもんが生まれた未来にも、こんな不器用で面倒くさい職業は残っているのだろうか?

残っていたら嬉しいな。

のび太はそう思った。



のび太「新人さん。バイトくん。」

新人・バイト「「はい。」」

のび太「今のお客様に社割り使った事、お願いだから他の人には」

新人「分かってますよ。」

バイト「ここだけの秘密にしときます。」

のび太「ごめんね。助かるよ。」



1週間後の休日 のび太のアパート

午後5時過ぎ。

この日、のび太は正午からずっとPCに向かっていた。

明日の店長会議の資料作りである。

本当は出勤日である昨日、暇な時間を利用して店のPCで作ってしまうつもりでいたのだが、予想以上に来客数が多く、ほぼ1日接客に時間を割く事となった。

その為、こうして自宅に持ち帰って作らざるを得なくなってしまったのである。



のび太「あっ・・・・・・あ~、やっと終わったぁ! ホント、いくつになっても宿題は大嫌いだぁ!」



体をのけ反らせて盛大に伸びをする。

そして椅子から立ち上がると、半ば倒れ込むようにしてソファに寝そべった。



のび太(あ~、もう5時だよぉ。晩ごはん面倒くさぁ。卵かけご飯とかですませようかなぁ・・・)

のび太(って、ダメだダメだ。昨日も一昨日も卵かけご飯だったじゃないか。もうそろそろ、まともな物を食べないと。)

のび太(あ~、でもホント面倒くさいなぁ。外に食べに行こうかなぁ。)

のび太(外に・・・)チラッ

カレンダーに視線を送る。

のび太(しずかちゃんの店、今日から営業再開だったなぁ。)


しずかと義雄がのび太の店を訪れた2日後、しずかの祖父はこの世を去った。

のび太はシフトの都合上、通夜への参列は難しそうだったので、翌日に半休を取って告別式に参列した。

人間の人望は葬儀の参列者の人数に表れるとはよく言ったものである。

厳格で尊敬できる人物だったと言う義雄の言葉通り、焼香を待つ人々が成す長蛇の列はセレモニーホールの外まで続いていた。

のび太もジャケットの内ポケットから数珠を取り出し、その最後尾に加わる。

のび太まで焼香が回ってきたのは、それから実に20分後である。



親族席で義雄は参列者の一人一人に深々と頭を垂れていた。

おろしたての黒のダブルスーツに、のび太が選んだ黒のストレートチップ。

その毅然とした立ち振舞いは、まさに喪主の模範例だとのび太は思った。

そしてその隣に、ワンピースタイプの喪服に身を包んだしずかが立っていた。

普段なかなか見る機会のない清廉な喪服姿のしずかに、不謹慎ながら見とれてしまった事は否めない。

焼香を済ませ親族席に礼をし、顔を上げた時、しずかと目が合った。

しずかは優しくのび太を見つめ、小さく笑った・・・ような気がする。

いや、気のせいかも知れない。


その後、のび太は店に出勤した。

のび太は普段から通勤靴と仕事靴を分けており、店で履くための仕事靴は全てスタッフ控え室に置きっぱなしにしている。

略礼装のブラックスーツなので、靴とベルトとネクタイをワインレッドの物に変えれば1日ぐらいはどうにかなる。

そして1日の仕事を終え、帰路についていた頃にしずかからメールが届いた。

明日と明後日は祖父の遺品整理と休暇を兼ねて引き続き休みを取り、明明後日から再開するらしい。

その明明後日というのが今日なのである。


のび太(・・・行こうかなぁ。)

のび太(でもなぁ・・・再開と同時にいきなり顔を出すなんて、何か必死すぎて引かれないかなぁ・・・)

のび太(いや、でも、やっぱりきちんと会ってお悔やみの挨拶をするのがマナーだよな。)

のび太(うん。やっぱり行こう。挨拶するのもそうだけど、何よりしずかちゃんに会いたい。)

のび太(だけど・・・)チラッ

時計に目を向ける。

時刻は5時5分だった。



のび太(6時にオープンだもんなぁ。まぁ、6時ジャストで行くのはさすがに迷惑だろうから、6時15分ぐらいに行けば良いか。となると、家を出るのは5時半ぐらいかな。あと約30分、何をして時間を潰そうか・・・)

のび太(録画してた番組を見るには中途半端だよなぁ。本も全部読み終えたのばかりだし・・・)

のび太(・・・)チラッ

PC(・・・・・・)

のび太「・・・・・・ネットかな。」ムクッ



のび太はゆっくりと起き上がり、椅子に腰掛けた。



ネットをする時は気を付けなければならない。

ついつい時間を忘れて没頭してしまう事があるからだ。



のび太「何か面白いスレは・・・おっ、新しいおっさんスレだ。どれどれ?」カチカチ

PC(彼氏が「お尻は英語で何?」って真剣に訊いてくる(´;ω;`))

PC(シリアス)

のび太「・・・・・・あっ、あ~“尻ass”って事か。なるほど。」

のび太「『俺は評価するぜおっさん』っと。」カチャカチャ

のび太「さぁて、他は・・・・・・ん?」



PC(ZAKK Da GGGの新曲かっこよすぎワロチェケラッタwwwwwwww)



ZAKK Da GGG(ザック ダ スリージー)。

メジャーと契約を交わしていながらリア充やスイーツ()とは一切迎合しない本格派のラップを披露するMCとして日本のヒップホップシーンを牽引するカリスマであり、のび太の旧友ジャイアンその人である。



のび太「ZAKKの新曲? 発売は来週じゃ・・・あっ、そっか。今日からつべでPVが先行公開されるんだっけ。」

のび太「よし、早速つべに飛んでっと。」カチャカチャ



のび太「おっ、これだな。なになに? 新曲のタイトルは・・・」



『Gianism』



のび太「ジャイアニズム、ってヲイ!」

のび太「はははっ。まさにジャイアンって感じのタイトルだなぁ。きっとまたゴリゴリのヤンチャな曲なんだろうな。」

のび太「よし、再生。」カチッ



PC『It's all mine,Suga baby.俺の物。夢に見たSeventh Heaven手も届く。Yo! その声、瞳、髪も肌もすべて欲しいんだ、ありのまま。そうさ。金、地位、車、Bitch、酒。すべて手にしても足りねえ。俺に身預けて。No one.It's you.お前の愛が要る。だから手に入れる。これがGianism。』



のび太「えっ!? ラブソング!!!?」

ハイトーンのシンセサイザーが紡ぎだすメロウなトラックに、肩の力を抜いたスムースなフロウが舞い踊るレイドバックしたナンバー。

Gファンクの王道とも言うべきスタイルである。

ヒップホップを学んだ場こそニューヨークではあるが、ジャイアンは自身のサウンドに西海岸・東海岸といったこだわりは持たず、良いと思った物は何でも取り入れてきた。

その結果、プロとして活動する事になった現在、そのレンジの広いトラックメイキングのセンスは強力な武器となって多くのファンを掴むにいたった。


また、今回の新曲はリリックこそ甘美な愛の言葉で綴られてはいるが、安直にメロディを導入しないラップからは昨今のいわゆる歌物ラッパー達に対する強烈なアンチテーゼが感じられる。

常にヒップホップに対するリスペクトを忘れない芯の通ったスタンスも、彼の人気の一つなのである。



のび太「『Gianism』でまさかのラブソングだとは。でも、良い曲だなぁ。トラックがキレイだし、何よりジャイアンのラップって思わず聞き入っちゃう不思議な魅力があるんだよなぁ。」



のび太「・・・・・・“お前の愛が要る。だから手に入れる。”、か。」



『お前の物は俺の物』を座右の銘とするジャイアンらしい言い回しである。

しかし、その中身は意中の女性との愛に真っ向から向き合った、極めて実直な愛情表現に他ならない。

そのリリックに、本場ニューヨークで磨いたフロウが更なる説得力を加える事で、極上のラブソングに仕上がっていた。

のび太(そうだよなぁ。“手に入れる”物なんだよな。黙ってても転がり込んで来るような物じゃないんだ。手に入れなきゃ手に入らない。)

のび太(うん。やっぱり、今日しずかちゃんに会いに行くって決めて正解だったな。)

のび太「ははっ。またジャイアンに背中押されちゃったな。」



その後、のび太はジャイアンのメジャーデビュー曲『My name is G』他、数曲のPVを視聴し、家を出た。



6時15分 しずかのダイニングバー

ガチャッ

しずか「いらっしゃいませ。」

のび太「やぁ。」

しずか「あっ、のび太さん!」

のび太「一番乗りかな?」

しずか「えぇ。まだ開店から15分だもの。さっ、カウンターにどうぞ。」

のび太「ありがとう。しずかちゃん、この度は誠に御愁傷様でした。お悔やみ申し上げます。」ペコッ

しずか「ありがとうございます。色々お世話になりました。」ペコッ

のび太「お世話だなんて。僕は何もしてないよ。」

しずか「そんな事ないわ。最高の靴を選んでくれたじゃない。本当にすごく気に入ってたのよ。」

のび太「あぁ、それはね。まぁ、喜んでもらえたなら僕も嬉しいよ。」

しずか「それに、私の事を心の底から心配してくれたじゃない。」

のび太「あ、あぁ・・・・・・」

しずか「本当に嬉しかったわ。」

のび太「・・・そっか。」

しずか「告別式にも来てくれたでしょ?」

のび太「うん。」

しずか「実は私、あのとき少し気が滅入ってたの。ほら、お葬式って何だか『悲しみなさい』っていうような雰囲気が出るじゃない?」


のび太「分かる分かる。確かにそうだね。」

しずか「もちろん祖父が亡くなって悲しいし寂しいけど、何だか私が感じてる以上の悲しみを演じなきゃいけないような気がして。少し疲れてたの。」

のび太「うん。」

しずか「だから、のび太さんの顔を見た時、なんだかすごく心が軽くなったような気がしたわ。」

のび太「えっ?」ドキッ

しずか「お焼香の後、目が合ったでしょ? あのとき私、嬉しくて笑いそうだったの。もちろんお葬式の最中だからグッと堪えたんだけど。」

のび太「そうだったんだ。」

のび太(やっぱりしずかちゃんは笑ってたんだ・・・)


しずか「ありがとう。」

のび太「いや、別に・・・」

しずか「お礼に一杯おごるわ。何が良いかしら?」

のび太「えっ? 良いの?」

しずか「えぇ。遠慮しないで。」

のび太「じゃあ、ジャックダニ・・・いや、ワイルドターキー8年をロックで。」

しずか「えっ? ロック? 大丈夫なの? ターキーの8年はジャックより10度も高いのよ?」

のび太「良いんだ。何だか今日はガッツリ飲みたくなってきた。」

しずか「そうなの? 分かったわ。」


天にも昇る気持ちとはこの事だ。

しずかの力になれた。

しずかの心の中に自分の居場所はあった。

こんな日に飲まなくていつ飲むというのか。



しずか「はい。ターキー8年お待たせしました。」コトッ

のび太「ありがとう。」カラン

グビッ

のび太「!!」

のび太(キッツ!!)

しずか「大丈夫?」

のび太「えっ? う、うん。平気平気! ははっ。」

のび太(もうちょっと氷が溶けるまで置いとこう。)

しずか「もしキツかったらソーダを足してハイボールにするから言ってね。」

のび太「ありがとう。それにしてもさ、おじいさんのお葬式、すごい参列者だったね。」

しずか「そうね。若い頃から人望のある人だったとは聞いてたけど、まさかあれほどとは思ってなかったわ。」

のび太「変な言い方だけど・・・・・・羨ましいよね。あれだけたくさんの人に偲んでもらえたら。」

しずか「えぇ。最高の人生の終幕じゃないかしら。」

のび太「そうだね。」

しずか「私もあんな風に人生を終えられる人間になりたいわ。」

のび太「大丈夫だよ。しずかちゃんなら。少なくとも、その・・・」

しずか「???」

のび太「・・・もししずかちゃんが死んだら・・・僕はあの人数を全部足しても足りないぐらい泣いて偲ぶよ。」

しずか「のび太さん・・・」

のび太「って、縁起でもないね。ごめんごめん。この話やめ。」

しずか「ふふふっ。ありがとう。ところで、のび太さん。」

のび太「なに?」

しずか「のび太さんの次のお休みはいつなの?」

のび太「休み? あぁ、えっと、次は5日後だね。」

しずか「5日後? あっ、良いタイミングじゃない。」

のび太「えっ? 何が?」

しずか「5日後ならこのお店の定休日よ。」

のび太「あぁ、そうだね。」

しずか「そうなのよ。」

のび太「・・・。」

しずか「・・・。」

のび太「・・・。」

しずか「・・・・・・覚えてないの?」

のび太「えっ?」

しずか「ジャイ子ちゃんの映画。」

のび太「あっ!!」

しずか「一緒に行こうって約束したじゃない。」

のび太「ご、ごめん! すっかり忘」アセアセ

しずか「すっかり忘れる程度の用事なのね。なら行かなくても良いんじゃないかしら? 私一人で見てくるわ。」ツンッ


のび太「あわわわわっ! ごめんなさい! 死ぬほど大事な用事です! どうかご一緒させて下さい!」アタフタ

しずか「ふふふっ。冗談よ。一緒に行きましょう。」

のび太「う、うん! 行こう! 予定空けておくね!」

のび太(やった!)



のび太はグラスを引っ掴むとターキーを一気に飲み干した。



しずか「えっ!? ちょ、ちょっと!」



氷が溶け出して多少は味も薄まっているが、ハイボールに飲み慣れているのび太からすればキツい事に変わりはない。

だが今はそのキツさがむしろ心地よい。

しずかと二人で出掛ける約束をした。

天を昇り切って火星に頭をぶつけそうな気持ちだ。

今日は潰れるまで飲んでやろうとのび太は思った。


しずか「そんなに一気にあおって・・・」

のび太「おかわり!」

しずか「・・・大丈夫なの?」

のび太「大丈夫! 超大丈夫!」



明日は二日酔いだろうなと思った。

しかも地獄の店長会議だが、もうどうでも良かった。

どうにでもなるという自信もあった。

資料は作ってあるし、何より口八丁手八丁は幼少時代からの得意技だ。

それよりも今はこの時間をもっと楽しみたい。


しずか「あんまり無茶しちゃダメよ。」コトッ

のび太「平気平気~♪」カラン

しずか「もう。」


のび太「えへへっ。でもアレだね、僕たちもすっかり良い歳になっちゃったね。」

しずか「嫌味?」ジロッ

のび太「あっ、ごめん! そういう意味じゃないよ! たださ、ホラ、お互いこうやって仕事も板についてきて、お酒も飲むようになって。空き地でサッカーとかラジコンとかやってた頃から、もうずいぶん経ったんだなぁって思ったんだ。」

しずか「そうねぇ。あの頃は自分が大人になるなんて夢にも思ってなかったわね。」

のび太「うん。何かずっとこうやって、毎日勉強して遊んでってのを繰り返すような気がしてたね。」


しずか「あら? のび太さんは毎日勉強してたのかしら?」

のび太「そ、それは・・・」ギクッ

しずか「ふふふっ。でもホント、あの頃からずいぶん時間が経ったわね。スネ夫さんも結婚するみたいだし。」

のび太「そうだね。」

しずか「たけしさんはどうなのかしら?」

のび太「えっ? どうとは?」

しずか「結婚よ。ラッパーの人ってモテないのかしら?」

のび太「そりゃあモテるんじゃないかなぁ? 特にジャイアンぐらい売れてれば尚更。」

しずか「そうよねぇ。たけしさん、彼女はいないのかしら?」


のび太「いるみたいだよ。確かギャル系雑誌のモデルさんだって。」

しずか「そうなの!?」

のび太「うん。PVに出てもらった事がきっかけで付き合ったんだって。メールでそう言ってたよ。」

しずか「あっ、たけしさんと連絡取ってるのね。」

のび太「半年前にジャイ子ちゃんからメアドを教えてもらってね。でも、ジャイアン忙しいみたいだから5通に1通ぐらいしか返事は来ないよ。」

しずか「プロの歌手だものねぇ。仕方ないわよ。それにしても、たけしさんとモデルさんかぁ。予想外の組み合わせねぇ。」


のび太「そうだねぇ・・・・・・ぷっ!」

しずか「ど、どうしたの?」

のび太「くくくくく・・・いや、10センチヒール履いたイケイケの女の子とB系の大男がさぁ、剛田家の居間で正座して結婚の挨拶してる場面を想像したら、もうおっかしくておかしくて! くふははははは!」

しずか「ぷっ! ちょ、ちょっと! くくく・・・失礼よ!」

のび太「Put your 結婚! Put your 結婚!」

しずか「あはははははは! もう! 言うワケないでしょ!」

のび太「はははははっ!」

しずか「あぁ~、もう。涙が出てきたわぁ。」フキフキ

のび太「今日イチの大当たりだね。」

しずか「ごちそうさまでした。」

のび太「お粗末さまです。」

しずか「あぁ~、おかしい。でも、たけしさんならきっと良い旦那さんになりそうね。」

のび太「そうだね。昔から兄貴肌なところはあったし、包容力はあるんじゃないかな?」

しずか「そうよね。」

のび太「あ、待てよ。むしろ逆かな? イケイケギャルの尻に敷かれてたりして。」

しずか「それも考えられるわね。それぐらいの人じゃないとたけしさんの奥さんは務まらないような気がするわ。」

のび太「だね。それに、男は母親似の人を好きになるって言うし。あのカーチャンに似た女の子だとしたら、確実に尻に敷かれてるね。」

しずか「ふふふっ。そうね。ところで、のび太さんは?」

のび太「えっ?」



しずか「結婚の予定は?」

のび太「い、いやいやいや!」アタフタ

しずか「ないの?」

のび太「ななな、ないよないよ!」ワタワタ

しずか「彼女はいないんだったかしら?」

のび太「いないよ。もちろん・・・」

しずか「気になってる人は?」

のび太「それも別に・・・」



(さぁ、お前ならどうする。)

のび太(!?)

不意に脳内にあの歌が響いた。



(幸福我で掴み取るか。)



のび太(・・・。)



(降伏してなるのか敗北者。)



のび太(僕は・・・。)



(敗北者。)



のび太(僕は・・・。)


のび太「・・・いや。気になってる人なら・・・いるよ。」







のび太(掴み取る。)







しずか「あらっ!? そうなの!? 」

のび太「うん。」

しずか「私が聞いても良い話かしら?」

のび太「う、うん・・・・・・もちろん。」

しずか「どんな人なの? その、気になってる人って。」



先ほどまでの酔いが嘘のように引いてゆく。

口の中が粘つくほどに乾燥している事に気付き、慌ててターキーで潤そうとするが、そのグラスに伸ばした手は小刻みに震えていた。

これじゃまるでアル中じゃないか。


のび太「あのね・・・・・・」



アバラを粉砕せんとばかりに鼓動が高鳴る。

声を発しようとする自分と、それを妨げる自分。

相反する二つの自我に翻弄され、言葉は喉の奥で右往左往を繰り返していた。

だが、引き返すワケにはいかない。

今までの自分は、いつも目先の利益や楽しみに埋没する事で大事な課題から目を背けてきた。

今回だってそうだ。

しずかと映画の約束をした事自体は確かに前進と呼べよう。

だが、それはゴールなどでは決してない。

大事なのはその先だと分かっていながら、その微細な前進から得られた満足感に身を委ているようでは、何も変わらない。







(がんばれ。)



(ドラえもんをがっかりさせない為にもな。)







のび太「・・・・・・しずかちゃん・・・だよ。」

しずか「えっ?」

のび太「・・・・・・僕の気になってる人。」

しずか「・・・・・・あの・・・えっ?」

のび太「・・・・・・僕は、しずかちゃんが好きだ。」

しずか「・・・・・・のび太さん?」


のび太「・・・ごめん。急すぎるよね。普通はもっとデートしたりメールで思わせ振りな事言ったりして段階を踏む物なんだろうけど、僕にはそんな器用な事できそうにない。お酒の力借りてこんな事言うのも不誠実だって分かってる。でも、僕はやっぱり意気地無しだから、その・・・」

しずか「・・・・・・。」


のび太「ずっと好きだったんだ。小学生の頃からずっと。こんな何も良いトコのない僕に優しくしてくれて、しずかちゃんに会えるってだけで毎日楽しかったんだ。ホント、何年片想いしてるんだって話だよね。ははっ。昔から意気地無しでぐうたらで、その結果今の今までずっと言えなくて。」

しずか「・・・・・・。」

のび太「でもさ、今回おじいさんの事でしずかちゃんと連絡つかなくなってさ、僕、たった2日連絡取れなかっただけで死ぬほど焦ったんだよね。しずかちゃんと二度と会えないんじゃないかとか、そんな想像してヤキモキしてさ。今から考えたら情けない事この上ないよね。」



しずか「そんな、情けないだなんて・・・・・・。」

のび太「でさ、しずかちゃんからメールが来た時、もうそれこそ大学の合格発表を見るぐらい緊張したんだ。それで翌日うちの店に来てくれて、しずかちゃんの姿を見た時にさ、すごくホッとしたんだよね。『あぁ、僕はこの2日間こんなに強ばって過ごしてたのか』と思ったよ。それと同時にさ・・・その・・・・・・」

しずか「・・・・・・その?」

のび太「僕はその・・・・・・やっぱり、しずかちゃんの事が大好きなんだなぁって。好きで好きで仕方ないんだなぁって、思ったんだ。僕にはしずかちゃんしかいないんだなぁって。」


しずか「のび太さん・・・・・」

のび太「ははっ・・・・・・良い歳して何言ってるんだろ。かっこ悪いよね。」

しずか「・・・そんな事ないわよ。」

のび太「いや、かっこ悪いよ。客観的に見て『うわぁ、こんな奴にはなりたくないなぁ』って思うもん。まぁ、なりたくないも何も、他ならぬ自分なんだけどさ。ははっ。」

しずか「ふふっ。」

のび太「えっと、それから・・・・・・他にもその・・・」

しずか「もう良いわよ。」

のび太「いや、まだまだあるんだよ。だって、小学生の頃から」

しずか「もう十分よ。十分伝わったわ。大切なのは言葉じゃなくて、気持ちでしょ?」

のび太「あっ・・・・・・そ、そうだね・・・」

しずか「嬉しいわ。」

のび太「あ、あのさ、しずかちゃん。僕は・・・僕は・・・」ぜぇぜぇ



いつの間にか息が上がっていた。

思い付くままの思いを思い切りぶつけたため、つい興奮して話しすぎてしまっていたらしい。

のび太は呼吸と気持ちを整えるため、グラスに残っていたターキーを一気に飲み干した。



のび太「僕はしずかちゃんが好きだ。だから・・・」

しずか「うん。」


のび太「ぼ、僕と付き合・・・う゛!!!!」

しずか「えっ?」



突如、胃から喉へと突き上げるような衝撃を感じた。

それに合わせて、のび太の肩も大きく上下する。

みるみる内に口内に塩味の強い唾液が充満しはじめた。

更には涙が滲み、ボヤけだす視界。

のび太は瞬時に悟った。

これは、マズい。



のび太「ご、ごめん!! ちょっとタイム!!」ガタッ

しずか「のび太さん!?」



のび太は転がり落ちるように椅子から離れ、一直線にトイレへと駆け込んだ。

その間にも更に一度、肩を激しく上下させる。



トイレのドアを後ろ手で乱暴に閉めたのび太は、鍵をかける事すら忘れて便座の前にしゃがみこんだ。

そして



う゛えっ!! おう゛えっ!! カハッ!! ゲッホゲッホ!!



しずか(・・・・・・最悪。)



ため息と共にしずかの肩ががっくりと落ちた。

その落ちた肩を上げる様子もなく、しずかはカウンターに取り残されたのび太のウィスキーグラスを洗い桶に放り込む。

そして、食器棚からジョッキを一つ取り出した。

クリスタルガイザーをなみなみと注ぎ、カウンターに置く。

今日はもうこれ以上飲ませない方が良い。


とりあえず、のび太がトイレから出てきたら飲めるだけ水を飲ませよう。

血中アルコール濃度を下げなくては。



しずか「ホントにもう・・・・・・ふふっ。」



昔から決めるべき場面で決められないのがのび太だった。

“ドジ”という言葉がここまで似合う男をしずかは他に知らない。

ドジで臆病で、そのクセ無計画なお調子者。

今日だって大して酒に強くもないクセに忠告を聞かず、50.5度のウィスキーをロックで2杯もあおって自爆している。

幼少時代はその無計画さと慢心でもってドラえもんの道具を乱用し、とんでもない事態を引き起こした事もあった。

これだけの長い付き合いの中で、のび太のそういった性格に対して一度たりとも苛ついた事がないと言えば嘘になる。

いや、大嘘になる。

すなわち、一度や二度ではない。

もしものび太と付き合ったりしようものなら、今後更にそういった機会は増えるだろう。

だがそれでも良いと思えた。

何故なら、ここまで愚直で心優しい人間もまた、しずかは他に知らないからである。


昔からイジメられっ子で損な役回りばかり押し付けられてきたのび太。

だが彼は自分がどれだけ傷付けられる事があっても、自分から誰かを傷付けた事は一度たりともない。

常に大真面目で、他人と真っ向から向かい合い、慈しむ気持ちを忘れない人物。

それが野比のび太である。

その証拠に、のび太は先般の祖父の一件においても、誰よりもしずかの事を心配してくれていた。

それはあの必要最低限の言葉で綴られたメールや、2日ぶりにしずかの姿を目にした時に浮かべた安堵の表情からもヒシヒシと感じる事ができた。



しずか自身も今回の祖父の一件で不安や悲しみに心が囚われそうになった時、何度となくのび太の事を頭に思い描いた。

そうすると、不思議と心が軽くなってゆくのだ。

のび太はこんなにも自分を気にかけてくれている。

とても大きな安心感がそこにはあった。

葬儀の最中ものび太に会いたいと何度も思った。

すると、のび太は本当に現れた。

まるでクリスマスの朝を迎えた子供のように心が弾んだ記憶が、今でも鮮明に残っている。

しずかは思った。

私ものび太さんを必要としているのかな。

のび太は小学生の頃からしずかに想いを寄せていたと言う。

さすがに、しずかはその頃はまだそんな気持ちを持ち合わせてはいなかった。

だが、やがてその心もいつの間にかのび太の方へと少しずつ引き寄せられていたらしい。

それこそ、“好き”という実感も湧かないほどの、極めてのび太らしいスローな引力によって。

そんなのび太と恋愛しながら共にゆっくり歩んでゆく。

それもまた悪くないんじゃないかとしずかは思った。



ゲッホゲッホ!! おえっ!!



なおものび太の聞き苦しい嗚咽は続く。

しずかは苦笑いを浮かべ、ラジオのスイッチを入れた。

店内の四隅に設置されたスピーカーから、小気味の良いビートが聞こえてくる。

トイレからの呻き声も少しは紛れるというものだ。



DJ『いや~、非常に甘い愛の歌ですね。大切な誰かと一緒に聴いたりなんかしてもらえば、二人の愛がますます深まったりするんじゃないでしょうか? はい、というワケで、お送りしましたナンバーは、ラジオネーム・ブタゴリラさんからのリクエスト。来週水曜日発売となりますZAKK Da GGGのニューシングル。「Gianism」でした。』






しずか「のび太さん。不束者ですがよろしくお願いします。」



Fin


しずかちゃん.jpg


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手に入れたいものが何かは分かってる
でも、どうやったって手に入らないモノもある。

それでもいいじゃないか、それだけでいいんだ

僕に出来ることはみんなよりも知識を増やす事
だから、全ての時間を割いて、勉強をしたんだ

なのに、忘れることができないんだ

君との思い出を。



机に座って勉強をする人と立ったり走ったりする人だったら
きっと小学生の頃なら後者の方が多いと思う。

だから僕は遊びに遊びに誘われなかったのかな?

僕は前者だから

寂しくはないよ
女の子たちは僕と話してくれたからね
「知らないことはない、博士の出木杉」
こんなあだ名が付きそうになったのは内緒の話


その話しかけてくれる女の子の中に静香ちゃんはいた。
あのバカ三人、、、じゃなくてのび太君たちと良く遊んでいる子だ

当時小学生だったのにね、変な話だけど
天使、っていうのかな、、、、変な比喩だね

でも、本当にそう
天使だった



どんなにつらい勉強でも
彼女と競ったり、教えたり、逆に教えてもらったり
そんな日常が僕の支えだったんだ

僕達はみんな中学校に進学した
僕は、まぁ、進学校の中学に行ったからみんなとは離れちゃったけど

でも、図書館で静香ちゃんとはよく会っていた

他愛もない、そんな会話がとても魅力的だった、
それこそ有意義な時間っていうのかな



そんな他愛もない話に変化が起き始めた
だんだんと話の中に

のび太君が、よく出てくるようになったんだ




僕はね、頭がいいというか
回転が速いんだ、、、、これは自負してる

だから気づいたんだ

「僕の天使は、いなくなってしまった」ってね



憎かった
とてつもなく怒りを感じた

なぜなんだって

僕の何がいけなかったのか

問題が解けてしまうから?
解決してしまうから?
勉強してしまうから?



僕はね、初めて怒ったよ
いや、キレたって感じかな

その静香ちゃんの気持ちに気づいた瞬間
気づけば、、、、

のび太君の家の前にいたんだ



その日家にはのび太君しかいなかったらしくてね
まぁ、それに気づいたのもあとの話なんだけど

何も考えずにのび太君の部屋のドアを勢いよくあけたんだ


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「なぜ君は僕の前に立つ!」

「え?!あれ?出木杉君?!」

「のび太君!君は自分のしたことが分かっているのか?」

「いや、、、その、、わからないけど」

「僕は君よりも遥かに物を知っている、なのに、こんな事で君に負けてしまうのか、、?」

「出木杉君の何が僕に負けてるの?」


いや、冷静に考えれば
「いきなり何言ってんだこいつ」って話なんだけど

のび太君は、まぁ、良い意味でさ

馬鹿だったんだ

その目の前の答えだけを求めてくれた



のび太「僕が出木杉君に勝てるものなんて射撃ぐらいだよw」

出木杉「うるさい!!僕は、何も欲を出さなかった!今回の一つぐらいくれてもいいじゃないか!」

のび太「、、、、。」

出木杉「静香ちゃんは、、、僕は、、、ずっと、、、」




のび太「、、、、出木杉君、静香ちゃんは、モノじゃないよ?」



出木杉「!!」

のび太「くれるって、誰からもらうの?」

出木杉「違うんだ、、、今のは、、」

のび太「僕は好きな子がいるけど、見てて思うよ、、、、」

のび太「伝えたら、触ったらきっといなくなっちゃう、でもそのぎりぎりの目の前までいかないと」


のび太「それがなんなのか、相手にはわからないよ」



出木杉「のび太君、、」

のび太「僕には難しいことはわからない」

のび太「でも、出木杉君なら、きっと解けるよ!」

そうか、
信じて疑わない、疑っても信じる
君は自分を最初にいきなり罵ったやつでも応援してくれる

出木杉「ごめん、、、急に、怒ったりして」

のび太「ううん!だって友達じゃないか!」

小学生の頃と変わらない。
喧嘩したとか、卑下したとか
そんなんでも変わらない

出木杉「優しさ、、、なんだね」

世の中手に入らないものばかりだ
でも、それで諦めていたら

それこそ何も残らない

劣等か、、、

友達に、劣等なんてないんだ
そう、彼がどんな事でも、隣にいてくれるように


出木杉.jpg



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欲しいものに関して、我慢をしたことが無かった

「パパ」という
身体、魅力、そういったもので手にしたものじゃない
生まれ持っての勝ち組

そう、僕は金持ちだ。


いつも通りの容赦のない暴力
その矛先が僕に向くことはない

どこまでも下で、なにがあっても覆ることが無い。

そんな存在が目の前にいるからだ



スネ夫「悪いなのび太、このクルーザは二人乗りなんだ!」

そしてその一つは

ジャイアン「そういうことだ!じゃあな!」

このゴリラが乗る

決めていないが、そういうことになってる
それでも、その時に悔しがって嫌な顔をするのび太だけど
次の時にはそんな事を忘れて一緒に遊んでくれる。



優越?
そんなもので言い表せない

発売前に、しかも小学生では到底手が出せない値段の玩具や
数年に一度しか行けないような海外旅行、しかもファーストクラス

それが毎年、毎週のように手に入ったら、、、、

どうだい?すごいだろ?



なのに、
なのになのになのになのに、、、

なぜ静香ちゃんはあいつのもとに行った
なぜあいつの周りには人が自然に集まる
なぜ僕は金を出さないと誰も興味を示さない

なぜあいつは「友達だから」と僕を助ける
僕は、僕は


一体何をしてきたんだ?



スネ夫「なんでだ」

のび太「なにが?」

スネ夫「なんで僕を助ける!」

スネ夫「今回の事もそうだ!いつも通りあいつらに上納金を求められて、僕が金を出せばすんだんだ!」

スネ夫「なんでそれでお前が殴られる!」

スネ夫「なんで僕をかばった!」

スネ夫「僕はお前を見下しているんだぞ!」

スネ夫「馬鹿でのろまで!あるものといえばドラえもん!」


スネ夫「そうか!ドラえもんがいるから優越感に浸ってるんだ!」

のび太「スネ夫」

こいつにこいつにこいつに

スネ夫「そうだよな!道具を出してもらえば報復も簡単だもんな!」

のび太「スネ夫」

スネ夫「僕が持ってないものなんて!」

のび太「スネ夫!!!」

スネ夫「っ!!」



のび太「何を意地になってるの?」

全てを見透かすな、何がわかるんだ

スネ夫「は!何がだよ!」

なぜこいつは飄々と

のび太「何に疑問を持ってるの?」

お前にわかるわけない!

スネ夫「だまれ!おまえなんか!」


のび太「友達だろ?」


のび太「なんで友達を助けないの?」

どうして

スネ夫「どうして、僕はお前の事を見下しているんだぞ!」

のび太「知ってる、僕はのろまで馬鹿だ」

スネ夫「だったら!」

のび太「そう、それでも、スネ夫は僕と遊んでくれた」

スネ夫「!?」




のび太「僕の事を馬鹿にしていても、一緒にいてくれた」

のび太「どんなに僕を使って蔑んで、卑下して」

のび太「それでも、スネ夫は僕と一緒にいてくれた」

やめろ

のび太「今もそうだ」

やめろやめろ

のび太「僕を見下していても、僕に自分の意思をぶつけてくれてる」

やめろやめろやめろ

のび太「優越感なんて知らない、でも、スネ夫がくれた友達としての優しさを、僕は」

スネ夫「やめろぉお!!!!!」



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スネ夫「僕はそんなんじゃない!」

僕はただ自分の場所が欲しくて

スネ夫「僕は、僕は!」

自分の位置が、上という、ただの飾りが

のび太「僕は覚えてる」

スネ夫が助けてくれた、あの日を



僕が他校の生徒に呼び出しをくらい逃げれなかった時

覚悟して行こうとした時、バイクに乗ったスネ夫と後ろに乗るジャイアンに止められた

スネ夫「おう、のび太、ドラえもんが家で呼んでたぞ?」

ジャイアン「早く帰ってくれってよ」

のび太「いや、、、僕は、、行くところがあって、、」



スネ夫「場所は?」

のび太「裏山だけど、、」

スネ夫「、、、、、。」



スネ夫「このバイクはさ、二人乗りなんだ」



ジャイアン「、、、!!、あ、そうだな、これは二人乗りだ」

のび太「まぁ、バイクだしね?」

スネ夫「それで後ろにはジャイアンが乗っている」

のび太「うん?」

スネ夫「悪いな、お前が乗る席はない」

のび太「、、、見ればわかるけど?」

スネ夫「そういうことだ、とっとと家に帰れ」

のび太「、、、、、え?」




ジャイアン「俺らはこれから裏山に秘密の特訓をしに行くから、のび太はくんなよ?」

のび太「そ、それは駄目だよ!スネ夫たちが」

ジャイアン「なんだよ!俺たちの秘密の特訓を邪魔しに来る気かよ!」

のび太「い、いや、、、そういうつもりじゃないけど、、、」

ジャイアン「じゃ、そういうことだから、来たらぶっ殺すからな」

スネ夫「家で悔しがってなー」

日が沈み、やはり気になって見に行くと、血みどろになって倒れる数人と木にもたれかかって笑ってる二人がいた



スネ夫「お前、あの時来てたのかよ」

のび太「うん、だから、今度は僕が助ける」

スネ夫「お、お前に何ができんだよ!」

のび太「わからないけど、それでも友達を見捨てる事なんてできないよ!」

ジャイアン「おうおう、なんで黙ってたんだ?」

スネ夫「じゃ、ジャイアン、、」

のび太「どうしてここに?」

ジャイアン「昼飯一緒に食おうと思って、な」

ジャイアン「どうしていわねぇんだ、心の友だろうが」


スネ夫「、、、相手は上級生だし、、、友達を、、、傷つけたくなんて、、、」

ジャイアン「おいおい、俺が負けると思ってるのか?」

スネ夫「そんなんじゃないけど、、、」

ジャイアン「おら、いくぞ」

スネ夫「どこに、?」

ジャイアン「あ?そんなの決まってるだろ」


ジャイアン「俺の「友達」を苦しめたやつを、ぶっとばしにだよ」




そうか、
僕らは、きっとこんな形で
こんな形でも

友達なんだ

スネ夫.jpg


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俺のものは俺のもの

お前のものは俺のもの

力に頼りすぎて見失う
そんな事ばかりじゃないけど

でも

思いつくまでも、俺は力で生きていた。


もともと身体は大きい方だった

それに伴って力もついてきた

小学生の頃にはガキ大将の異名から

ジャイアン、と呼ばれるようになった。
まぁ、悪い気はしなかった



嫌なことがあったらすぐに解決できた
怒ればよかったから

スネ夫からおもちゃを奪い
のび太から道具を奪う

弱みといえばかあちゃんぐらいだ


そんな俺は喧嘩に負けたことなどなかった
いや、

まず誰も俺に挑んでなどこなかった
もし最強なんて言葉があったら

当時の俺は最強だった。


そんなある日だった
俺は静香ちゃんからあるモノを奪った

いつも通りに、静香ちゃんは引き下がり
スネ夫達も何も言えずにいた

そういつも通り
でも、あいつだけは違った


「それは静香ちゃんの大切なものだ!」

そう言い俺に殴り掛かってきた

初めてのび太が俺に刃向ってきたのには驚いたが
俺も意地になっていた

返り討ちにした
でも

あいつは引き下がらなかった

食いつき、投げ飛ばされ
それでも引き下がらず、また殴られ
蹴られうずくまり

メガネが割れた時に俺も我に返った

「やばい、本気で殴りすぎた」、と

小学生の力で死ぬことはないだろうが
それでも、のび太ほど貧弱なやつなら病院送りになりそうなほど殴っていた



呻いて転がるのび太
やっちまったのは俺だが、ちょっと心配してしまった

だからと言って「大丈夫か」なんて声をかけることはできない
そう、今思えばいらない

ただの意地だ



俺は自分が何をしたのかわからなくなってしまった

奪ってきた
身を、時間を、モノを、

傷つけ、からかい、諦めろとは言わずに屈服させる
それが俺の普通になっていたからだ

「、、、、ごめん」


静香ちゃんにモノを返し、俺は家へと帰った

のび太に投げかける言葉、
スネ夫に謝るための言葉、

思いつかない
そんなことしたことが無かったから

そう、俺はジャイアンでいた、ずっと、、、、


次の日
いつも通りの日常に戻っていた

誰も変わらない

でもわかる
今まで気づかなかった事


みんな、俺を恐れている


当時の小学生の俺には重すぎた

それについて考えてしまった俺には
もう、その事を楽観的に思うのは無理があった

馬鹿な俺でもわかる
もう戻れないのだ

俺がのび太にやってしまった事
スネ夫にやってきた事









「後悔した。」


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放課後
いつも通り、そういつも通りに終わった
みんなと笑い、みんなと話
のび太をからかい

そうやって終わった。

それが怖かった
それを普通にしてしまった自分が、悲しかった


ある日俺は空地の土管の裏で昼寝していた
何も考えていなかった

眠気に負けて寝てしまった、
夢は見ていたかわからない

のび太「ジャイアン?」




ジャイアン「、、、、のび太」

のび太「どうしてこんなところで寝てるの?」

ジャイアン「なんとなくだよ」

のび太「そっか、」

ジャイアン「のび太、、、」

のび太「ん?」

ジャイアン「その、、、悪かったな、、、あんなに殴って」

のび太「ううん、僕こそ、殴り掛かってごめんね」



辛かった
謝ることがじゃない

のび太は許してくれる
謝れば、いつもの関係に戻ってくれる

そうわかってしまうのが
辛かった

ジャイアン「俺は、、、」



「後悔してるんでしょ?」
、、、、あぁ

「でも、大ジョブだよ」

え?

「まだ間に合うから」

のび太「みんな、ジャイアンの事が好きだから」



ジャイアン「そんなこと、」

のび太「僕達をいざって時に助けてくる、守ってくれるジャイアンを知ってるから」

ジャイアン「のび太、、、」

のび太「あ、でもジャイアンリサイタルは勘弁してほしいなぁw」

ジャイアン「あ、この野郎!」



痛みを伴った

身体の大きさに力がついてきたわけじゃない

今、俺は初めて力ができたことに気づいた
弱いけど確かに

心に対して痛みを伴い
助けてくれる友達がいて

その友情を守る力を、今感じた



いらないのだ、
ずっと持っていたもの

誰もが持っているもの
いや、もしかしたら必要かもしれない
でも、俺のこれはいらない

だから捨てて言おう

ジャイアン「のび太、ありがとう」

感謝もできない

そんな、

ただの意地なんて。


ジャイアン.jpg



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